ここはどこぞの世界・・・。
名は・・・「フェイレン」とかいったかな?
わたし達が住んでいる世界とは違い、
剣と魔法が三度の飯並に当たり前な世界・・・。
ある国では戦争で人々が苦しみ
ある国ではのんびり平和に暮らし
ある国では年中お祭り騒ぎ・・・。
ある冒険者は苦しむ人々のために魔王討伐
ある冒険者は富と名誉のためにひた走り
ある冒険者はクエスト探しては遂行失敗し
ある冒険者はやっぱり魔王討伐を・・・。
これから展開される話はちょっと奇妙なお話・・・。
まぁ、他の冒険者も助けて欲しいくらいですが・・・。
女6人男1人が織り成す世界救済活劇。
今回のお話はリッシアの最大の敵が復活したお話。

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0.「リア」

わたしの名はリア・ベイティクス。
駆け出しの冒険者。
ついこの前まで、街から出た事が無かった「箱入り娘」ですの(笑)
けれど今はそんなことは関係ありません。
強い弱いは関係なく、戦わなくてはならないのです。

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1.「虚偽な時間」

暗黒魔導士デグレザレズ。
彼が龍たちの住む世界をその力で捻じ曲げ、自分の為の場所にしてしまった世界を龍たちは「虚偽な時間」と呼びました。
そこは禍々しい瘴気に満ち、少し気を抜くと精神が蝕まれていくのが手に取るように判ります。
空間の景色という景色は歪み、狂ったような色彩にあふれていてこの空間が正にデグレザレズによって手を加えられたというのは明白です。

およそ2週間前。
リッシアの療養が終わり、彼女は人の力を引き出すといわれるオーブの力によって装いも新たにわたしたちのパーティに入りました。
数あるオーブの中で彼女が選んだのは、虹色に輝くオーブ。
月明かりをあびて無邪気に輝くそのオーブの色はどこまでも深く、それは透き通った湖のようでもありました。
満月の光を受けたオーブは、その光を無数に乱反射させてリッシアを撃ちました。
その光を浴びて、リッシアは――――

「どうしたの?リアお姉ちゃん。」
後ろから、リッシアの声がかかります。振り返ると、そこにはフェルさんのそれとよく似た服装――――ただしその背中にはどこぞでありがちな深緑のマントが背負われています――――をしたネコミミの少女が心配そうにこちらを見上げていました。
「なんでもないですわ。」
わたしはそういうと、どこまでも続いていそうなこの空間の奥――――それが存在するのであれば――――を見据えました。
「・・・・・・。」
見透かしたような、それでいてとらえどころのない飄々とした微笑をフェルさんが向けました。彼女のその微笑みは、まるで慈母のようであり、また叱咤する厳母のようでもあり・・・。
無限のような回廊を進むうち、わたしの思考はまたその淵へと彷徨い始めました。

遠い記憶の中。
ただ、身を切るような寒さの夜だったということ。今になれば思い出せるのはそれだけだったはずでした。
けれど、そこに痛みが加わって、男の罵声が加わります。
その声は酷くいらだっていて棘があり――――いいえ、棘というような生易しいものではなく、言うならそれは剣のような裂く鋭さを宿していて、どうすれば人間こんな声が出せるのだろうと思えるほど暴力に満ちた声でした。
そして、声とともに何か――――それは時に拳であったり脚であったり机であったり椅子であったり――――が振り下ろされ、それと同時にわたしの身体に――――まだ何も知ることの許されなかった赤ん坊の身体に耐え難い痛みと傷跡を残していきました。
最後にその声は、苛立ちを隠そうともせずに捨て台詞を残し遠ざかっていきました。
わたしの記憶にあるのはそこまでで、気付けばわたしは暖かいベッドの中にいました。
そばには顎鬚をたくわえた逞しい身体のおじさまと、短めの赤い髪と、燃えるような赤い瞳を持ったわたしよりは年上だと思われる男の子がいました。
――――後にわたしは二人をそれぞれお父様、お兄様と呼ぶようになりました。
どこの誰とも知らないわたしを、本当に親身になって育ててくださった恩は、この先永劫忘れることはないでしょう――――

「リア。」
ぐるりぐるりと思考が巡っていたわたしの横から、いつもの頼もしい声が届きました。
その方向を向けばそこには、わたしがこの18年間お兄様と呼び、時には師匠とも呼んだこともある男の人の姿。そして更にその隣にはいまや義姉となった金髪の天界人。
「ぼーっとしてつまづいたりすんじゃねぇぞ。」
ぶっきらぼうだけど優しい声で、ライお兄様はそう言います。シレイムさんはその横で静かに微笑んでいるだけ。
「ごめんなさい、ちょっと・・・。」
わたしは言いながら両手を開いて顔の前で振りました。
ライお兄様はそれを見ると、いつものように無気力そうな、だけど本当は冷静にいろんなコトを考えている半分無表情な顔に戻りました。
わたしを見るとき、お兄様の顔はとても優しく暖かい顔になります。それは、きっとわたしを本当の妹以上に可愛がって下さったから。
「リアさんは頭がいいから、考え始めるとなかなかとまんないんじゃないですかー?」
ライお兄様とは逆の隣から明るい声が届きます。
そちらを向けば、フェルさんと同じ52年後からやってきた未来のメイド、ファイさんがいます。更にその奥には今回の冒険で最初に出会ったリリスさん。
「不安はありますけど・・・でも、こちらに勝ち目はあるんでしょう?」
出合った時に比べれば、リリスさんは目でわかるほど顔つきが違います。
絶えずおどおどしていた顔はなく、そこには優しさと強さを兼ね揃えたヴァルキリーとしての顔がありました。
「そうよー、古代の魔法を発動させるタイミングさえつかめればあとはこっちのモンだからね。」
あっけらかんとフェルさんが言ってのけます。
そう、勝ち目はある戦いなのです。
けれど、決して油断は許されない戦いでもあります。油断すれば、わたしたちは確実にこの偽りの空間に飲み込まれてしまうのです。
「――――っと、御託はここまでのようだぜ。」
ライお兄様がそう言って、わたしたちはそこで足を止めました。

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2.「デグレザレズ」

そこは、丁度どんづまりのような場所でした。
振り返れば今まで歩いてきたはずの足場はなく、ただうつろうのみの不安定な足場がわたしたち7人の下に存在するだけで辺りは濃い瘴気が渦巻いています。
『来たか・・・。』
その瘴気の一点から、狂気と破壊に満ちた声が伸びてきました。
記憶のその端にひっかかる、剣のような声。
わたしがそのひっかかる何かを探ろうとしている間に、声の出た辺りの瘴気が歪み、そこに仰々しい服装を身にまとった魔導士の姿が現れました。
その顔は欲望と自身の捻じ曲がった魔力が醜く歪めていて、正視できるとはとてもいいがたいものでした。
『我輩の野望・・・その壁となり得る者どもよ・・・。我輩が直々に引導を渡してくれよう・・・。』
暗黒としか言いようのないマントが音もなく翻り、デグレザレズの姿が徐々に一つの魔物のそれに変形していきます。
それは顔だけがやけに大きく特化したような姿。それは闇の力で姿すら魔物になってしまった人間の成れの果て。
「これが・・・今のヤツの姿・・・!」
吐き捨てるようにフェルさんが言います。見れば、既にフェルさんの手には剣が握られていました。
「行くぞみんな!」
「ええ!」
「うん!」
「はい!」
「うん!」
「もちろん!」
ライお兄様の声に、わたし、シレイムさん、リリスさん、リッシアちゃん、ファイさんが応えます。フェルさんは声を出さず、代わりに静かに頷きました。
『ふふふ・・・・くく・・・くくくかかかかぁぁぁぁぁぁぁっっ!!』
辛うじてその声にだけ人としての原型を残した魔物が大きく咆哮を上げました。
それを合図に、わたしたちは一斉にその場から散りました。
「リッシアちゃん・・・わたしが合図したらあの魔法を使うのよ!」
「わかった!」
戦いが、因縁の戦いの火蓋が切って落とされました。

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3.「ラストバトル」

それは激しい戦いでした。
武器が行き交い、時には魔法が暴れてデグレザレズとわたしたちを傷つけていきました。
わたしは剣と魔法を適度に。
リッシアは魔法を剣に宿した魔法剣を駆使して。
リリスさんはリーチのある槍を活かして。
ライお兄様は得意の剣技で。
シレイムさんは天界の魔法で。
フェルさんは魔法主体の剣技で。
ファイさんはメイド独特の技で。
聖なるエクスカリバーで切り裂いても、伝説に謳われたグラディウスが貫いても、爆発最強魔法を宿した渾身の一撃も、天界の爆発魔法も、デクレザレズにとっては致命傷となる一撃ではなく、休む暇もなく強力な魔法でわたしたちを攻撃してきます。
時にはお互いをかばいあい、時には身を賭して斬りかかり、時には連携して――――
『全てを!全てを吸収しつくしてくれる!我輩がぁぁぁぁ!我輩こそぉぉ!全次元の天子となるのだああぁぁあ!!』
禍々しい雄たけびがわたしたち以外誰もいない空虚な空間に木霊します。その木霊すら大きな衝撃となって身体を打ち据えます。
「く・・・っ!みんなを悲しませるようなコト・・・わたしは許しません!」
リリスさんが吠え、その手に握られた槍が空を駆けました。
「そんな野望・・・!わたしたちが砕いてみせる!」
わたしは言いながら、エクスカリバーを魔物のその眉間へと突き立てます。
「あんたなんていなければ!わたしはみんなと楽しく過ごせたのに・・・この代償!大きいからね!」
リッシアがその言葉とともに魔法の力の宿った一撃を下します。
「全て・・・人間界も天界も、全部全部吸収して何がしたいの?そんなの僕、絶対に許さないよ!」
シレイムさんはそう言いながら、天界の魔法を発動させます。
「過去に飛ばされてなんとなく加わったけど・・・もうここまで来たら『世界の敵を包丁で裁いた伝説のメイド』として名を馳せてやるわ!」
ファイさんが二本の包丁を煌かせて飛び掛ります。
「ふん・・・お前にいいたいことなんざねーが敢えて言うなら、リオリエの前で恥かかせてもらった借りは返させてもらうぞ。」
ライお兄様が、目にも留まらぬ剣裁きで魔物の身体を切り裂きそして言います。
「さぁ、これで最後よ!あんたとはもう二度と会うことはないわ。あんたを消して、私の仕事は終わりよ!さあリッシアちゃん!今よ!」
全員の攻撃が一斉に届き、魔物はその動きを僅かに止めました。
そして、フェルさんの声とともに、リッシアは右に剣を握ったまま両手を天にかざします。
「古の時より守られし魔法!」
「古の時より守られし魔法!」
フェルさんとリッシアの声が、詠唱とともに重なります。
『命の輝き!其は人の優しき心より生まれる聖なる波動!』
『時の怒り!其は越えられぬ力を持ちし時空の恩赦!』
『光の鼓動!其は地の底より這い上がりし人々の夢と希望!』
『幾千年の時を経て我に力を!そして・・・』
右からリッシアが、左からフェルさんが両手を魔物にかざしました。その両手は溢れんばかりの魔力が満ちていて、今にも二人から離れてしまいそうでした。
『目前の悪を断て!』
詠唱の完了と同時に、リッシアとフェルさんから凄まじい魔力が放たれました。
それは詠唱にあった言葉の通り、この世に生きる全ての命の抵抗の刃。
偽られた空間の偽りを暴き、瘴気を浄化し、そしてその巨大な力の奔流は魔物の身体をも巻き込みます。
『く・・・あ・・・が・・・ががががぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!』
断末魔の叫びとともに、この空間から、今度こそ本当に、邪悪な魔導士デグレザレズの気配と、魔力と、存在が消えてゆきます。
「やっと・・・やっと終わった・・・。長い長い70年だったわ・・・。」
わたしの耳に、フェルさんの安堵の声が届きます――――

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4.「エンディング」

全ての次元を支配しようとしたデグレザレズはその存在を失い、フェルさん曰くつかの間の平和が訪れました。
ひとまずの戦いを終えて、わたしたちはライお兄様の家に集まりました。
勝利の宴――――そこに、ダンさん、ミミィさん、リオリエ様が駆けつけてくれました。
「戦いを終えた我が親友、そしてライバルたちよ!ご苦労だった!今日は存分に楽しんでくれ!」
「なんでお前が仕切ってんだよ。」
ダンさんが音頭を取り、ライお兄様がそれにつっこみ、笑いとともに乾杯がされました。
誰もが談笑に終始し、お兄様とダンさんに至っては何かよくわからない勝負に突入していてそれはそれは楽しそうです。
けれど、わたしはひとつ、気になることがありました。
それはわたしの記憶に眠っていたあの声がデグレザレズの声と重なったからでした。
そして、錆びつき、頑丈にカギがかけられていた扉が開きました。
かすかに記憶に残る、翼を持った、育ててくれたお父様、お母様とは違う二人の姿。
あの戦いのさなか、それまでわたしが持っていたどこか何かよく判らないけど付きまとう疑念。
デグレザレズははっきりと公言はしなかったけれど、その魂が散る直前、その記憶はわたしの疑念と結びついたのです。
そう、わたしは天界人。
どういう理由で、何があってわたしが人間界に来たのか。
それはわかりません。
けれど、知る方法はあります。
天界に行くこと。
わたしの本当のお母様とお父様に会うこと。
もちろん、それは簡単な道ではないでしょうけれど、時間はあります。
いつか、その日が来ることを信じて。
次の冒険の目的を、本当のお母様、お父様探しとしたいと思っています。

長い旅路を歩くリアとリッシア。
その遥か未来をフェルとファイは行く。
ライとシレイムがレグアに居を構え、娘とともに生活を送る日々の中でその時の彼女たちは何を見ているのか。
リアの言葉を借りるなら、今回の冒険は冒険譚の1ページ。
リッシアの言葉を借りるなら、それはやけに大きく長い1ページ。
けれど、この先に綴られる物語はもっと大きく、そしてもっと長い。
長い旅に生きる彼女たちの冒険が終わることはまだまだ遠い先の話になるだろう。
そこで何が起こるのか。
そんなことはその時になってみればいい。
けれど、それはまた別のお話。



Fin.



And



To be continued
      For “Feiren World 3”