ここはどこぞの世界・・・。
名は・・・「フェイレン」とかいったかな?
わたし達が住んでいる世界とは違い、
剣と魔法が三度の飯並に当たり前な世界・・・。
ある国では戦争で人々が苦しみ
ある国ではのんびり平和に暮らし
ある国では年中お祭り騒ぎ・・・。
ある冒険者は苦しむ人々のために魔王討伐
ある冒険者は富と名誉のためにひた走り
ある冒険者はクエスト探しては遂行失敗し
ある冒険者はお金を盗まれ路頭に迷い・・・。
これから展開される話はちょっと奇妙なお話・・・。
まぁ、他の冒険者から見ればどうだっていい話ですが・・・。
一人の女性剣士と一人の女性僧侶、そしてやや臆病な戦乙女・・・。
そんな三人が織り成す珍道中・・・。
今回のお話はその三人がある大会に参加したときに降りかかった出来事・・・。

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0.「リア」

わたしの名はリア・ベイティクス。
駆け出しの冒険者。
ついこの前まで、街から出た事が無かった「箱入り娘」ですの(笑)。
目指す目標はお兄様のような立派な冒険者。
もっともっと経験をつむようにがんばっている真っ最中ですの。
今度はどんな出来事が待っているのでしょうか。

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1.「トレジャーハンティング大会」

新しい大陸。わたしにとっては故郷のアイシクルがある大陸を除くと二つ目の場所ということになります。やっぱりアイシクルのような寒いところはあまり無いみたいです。
今度の大陸も比較的穏やかで、吹き抜ける風が気持ちいいですわ。
「まずは町までね。結構遠いみたいだから気合入れてね。」
リッシアがリリスさんにぶっきらぼうにいいます。リリスさんも最近はようやくリッシアのペース・・・というか見た目とのギャップに慣れてきたようです。
「モンスターも結構強いと聞きましたが。」
リリスさんは普通に返します。非常にいい雰囲気でジャマをしたくは無いのですけれど・・・。
「も・・・申し訳ありませんけど手伝ってくださぁ〜い!」
わたしは一人で黙々と荷物を下ろしていたのです。二人はさっさと行ってしまい。
「あーっ、すいませんっ!」
リリスさんがおたおたと駆け寄ってきてわたしが下ろした荷物を両手に持ってリッシアのところまでもって行きます。リッシアは身体は子供ですしプリーストですから力仕事はあまりしません。
「準備はいいー?」
全ての荷物を下ろし終わったところでリッシアが言います。わたしは右手でオーケーサインを出します。
「じゃ、行きましょうか。」
「えぇ。」
わたしを先頭に、船着場をあとにしました。太陽はまだてっぺんまで昇りきっていない、そんな時間帯。
船着場から東へ、海に沿って歩いていくと、やがて小高い山々が見えてきました。地図によればそれを南からぐるっとまわっていくとちょうどレングレルの町へつくとのこと。
ちなみにこのレングレル大陸の名前はここを統治している国の名前から来ているそうで、この町はその城下町。
山をぐるりと回りきったところで、ツインヘッドとブルーコボルトのコンビに出くわしました。
「リッシア!援護お願いします!」
わたしは即座に剣を抜いて駆け出します。リッシアはそれに無言で応え、魔法を詠唱し始めます。リリスさんは自慢のスピードを生かしてわたしを追い抜いて敵の背後に回ります。
「オーア!」
リッシアの魔法と共に、わたしの身体を黄色い、淡い光が覆います。その直後、わたしの剣とブルーコボルトの槍が音を立ててぶつかりました。
ツインヘッドがわたしに飛びかかろうとしますが、そこにリリスさんの槍が入って進むのを拒みます。
「ファイアッ!」
一進一退の状態のわたしを救うように火球がブルーコボルトに襲い掛かります。
「えいっ!」
炎に包まれたブルーコボルトの腹めがけてわたしは剣を一閃させます。途端に、ブルーコボルトの身体は霧のように消えてしまいました。
「リリスさんは・・・」
わたしが振り返ると、リッシアの魔法がツインヘッドをやっつけたところでした。リリスさんも無事。
「硬いモンスターでした・・・。」
リリスさんが槍を仕舞いながら呟きます。
確かに、ツインヘッドと戦っていたリリスさんは結構汗をかいています。硬い・・・つまり防御力が高いということですね。
「このあたりのモンスターが強いって言うのは多分このことね。」
リッシアが続けて言います。
ブルーコボルトはレムジス大陸にもいたモンスターですからそうとは思いませんでしたが・・・。
「とりあえず町まであと少しですわね。」
わたしはそう言って歩き出しました。二人が無言で続きます。
ほどなくして、わたし達はレングレル大陸唯一にして最大の町、レングレル城へ到着しました。城下町がとても広くて狭い雪国の村で育ったわたしにはちょっと広すぎるようです。
「大きな町・・・。」
「仕事はたくさんありそうね・・・。」
まずは仕事探し、ということでアドベンチャーギルドを探します。すぐに看板をかかげた宿屋、兼酒場が見つかりました。
その施設は、1階部分が酒場になっているようで、にぎやかな音楽と一緒にたくさんの人が楽しんでいるのが入った瞬間にもよくわかりました。
「多分あそこね。」
リッシアがそのフロアの一角を指差します。
そこには、看板は掲げられていないもののいかにもここがといわんばかりの様々な資料らしきものを抱えたおじさまが座っていました。
「すいません、お仕事はいっていませんか?」
わたしはカウンターに向かいながらおじさまにいいます。
おじさまはちらっとわたしの顔を見ると、いかにもすまなそうな顔をして言いました。
「悪いねぇ・・・。今は入ってないんだよ・・・。ここんとこ平和だから・・・。」
この大陸は確かにまだ平和なようです。モンスターの数が他のところよりも少ない気がします。
まぁ、他の、といっても二つしか知らないわけですが。あぁ、そういえば魔界なんてところにも行ってみたりしましたが・・・あそこは特別でしょう。
「あ、でも代わりといっちゃなんだけどさ。最近になってこの地域で発見された遺跡を会場にしてイベントが開かれてるんだ。地下7階まであるその遺跡を探索して、よりたくさんのお宝を発見できた人が勝ちってもんだ。そのなかでも特に値打ちのあるものを見つけた人にゃなんと十万ティンが賞金としてもらえるって寸法よ。どうよ?」
おじさまは一息にそれだけ言うと、今思い出したという感じで息を吸いました。ちょっと顔が赤くなっています。
でも・・・わたしは・・・そういう宝物をあさる、みたいな感じに遺跡にもぐるのは嫌なのです。お兄様のように、利益なんて求めずにただ自分の好奇心の赴くままに世界を旅して、自分の納得できる答えを導き出す。そんな冒険者になりたいのです。
「参加するわ。」
え・・・?
「はい、これ。必要事項は全部書いといたからね。」
「えっ、ちょ、り、リッシア?!」
「はいはい、3人参加、ね。」
リッシアはわたしのことなど気にもしない様子でそのまま申し込み用紙を提出してしまいました。おじさまはそれを確認すると、手元の台帳にそれを挟み込みました。
「そうそう、言い忘れてたけど、その遺跡から出てきたって人がいるんだけど、その人を連れてきたものにはボーナスで一万五千ティンが賞金で出るそうだ。場所はここから北西に言ったところにあるレムパスラって神殿だ。がんばってくれな!」
おじさまは台帳に何かを書き込みながらそういうと、最後にぽんっとハンコを押しました。
どうやらこれでわたし達は参加せざるを得なくなったようです・・・。
わたしは今後どうするべきかの計画を練るため宿屋に一晩こもることになりました。
リッシアは、どうして参加したのかについてはお茶を濁すばかりで応えてくれませんでした。わたしより8歳年上の彼女には、口で言うのは敵いそうにありません・・・。
とりあえず、最終的には戦いの経験をつむという目的で遺跡に入るという結論に達し、その賞金がもらえるアイテムや人物にもし会っても持ち帰らずにリタイアする、という方針で行くことに決まりました。
リッシアはわたしが悩んでいる間にリリスさんと城下町のお店を回り回復アイテムや、必要な武具を買ってきました。リリスさんはオニューの槍を抱えてご機嫌でした。

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2.「レムパスラ神殿」

それは確かにレングレルの町から北西に行ったところにありました。ただ、直接的には山々に遮られて行くことが出来ず、大きく遠回りすることになっていますけれど。
「おっきな神殿ですぅ〜・・・。」
リリスさんが神殿を見上げてちょっと間のぬけた声を上げます。 「何のために造られたんでしょうねぇ・・・。」
わたしはリリスさんと肩を並べながらリリスさんの言葉を繋ぎます。
「何のためかは知らないけど、とりあえず今はもうただのダンジョンにしか過ぎないってことは確かね。」
すたすたと歩きながらリッシアがつっけんどんに返します。まぁ・・・確かにそういってしまえばおしまいですけれど。
1階部分は大きなホールのようになっていて、今でも失われていない古代の装置が懇々と湧き出る泉を作り出していました。それは神殿を清める役目でもあったんでしょうか。
「あそこに階段が見えるわ。」
リッシアがその泉の向こう側を指差しました。倒壊した瓦礫の中に、確かにちょこんと階段があるのが見えます。
「じゃ、行きましょうか。」
そういって一歩踏み出した途端。
「!リア!うしろ!」
リッシアは言いながら、右の手のひらのわたしに向けて魔法を唱えました。
「避けなさいよ!サンダー!」
わたしはしゃがんでその魔法をかわします。すると、その途端後ろから分厚い布キレを無理やり引きちぎったような野太い悲鳴が上がりました。
「?!」
リリスさんとわたしは唖然としましたが、そこには確かに何かがいるのが見えました。はっきりではありません。ぼんやりと、ですけれど。
「幽霊なんかの類のモンスターね・・・。こういう古いダンジョンにはよくいるものよ。」
ロッドの先にホーリーの魔法をこめながら、リッシアが言いました。
わたしは剣を抜くと、そのどこにいるのかわかりにくいそのモンスターと向き合いました。リリスさんもそれに続きます。
「ぎゃああああん!」
不気味な声と共に、そのモンスターがリッシアに襲い掛かりました。多分、さっきのサンダーに怒ったのでしょう。
「阿呆。」
リッシアは言いながらロッドを横から振りました。ホーリーの魔法がロッドに絡みついたままそのモンスターを直撃します。そして、ホーリーの魔法の効果はロッドからモンスターに移り、そしてそのまま魔法が発動してモンスターは消滅しました。
「・・・頭の悪いやつ。生前どんなやつだったのか見てみたいわ。」
そういってリッシアはロッドを肩にかけました。わたしとリリスさんはその光景を呆然と眺めていました。

地下4階。順調に下っていった先には地下洞窟が広がっていました。
やっぱりもう既にいろんな人が入っているということだけあってたくさんあった宝物粉の中の宝箱はほとんど空っぽでした。中のものを持って行くつもりはありませんが。
誰がかけたのかちょっと謎な梯子を降りて、どんどん下を目指します。
梯子を下った段階で恐らく地下5階。あと二階層あるというわけで・・・。油断は禁物です。
階段を捜し求めて歩いていると、なんと人が倒れているのを発見してしまいました。
「だっ、大丈夫ですか?!」
わたしは慌てて駆け寄ってその人を起こします。その人はうっすら目を開けると、とぎれとぎれにいいました。
「こ・・・濃い・・・。」
「はっ?!」
「敵が・・・落としたポーションを飲んだんだが・・・あまりに濃くて苦くて・・・死にそう・・・。」
その人はそれだけ言ってるるー、という感じに涙を流しました。
あぁ、どうすればいいんでしょう、こんな時。
「それはグロ・ポーションね。」
話を聞いていたリッシアが唐突に口を開きました。
そして一歩前に出てその人の具合をテキパキと診ていきます。流石はプリースト。こういうときは非常に頼りになります。
「な・・・なんじゃそりゃ・・・。」
「モンスターがよく持ってるんだけどね。やたら濃く煮詰めまくったポーションのことで、まぁエクスポーションほどの回復力は無いんだけど結構効くのよね。ただ、あまりにも濃くて苦くてマナに結構来るんだけどね。ま、死にはしないわよ。」
その人の頭をポンポンと叩くと、リッシアはくるりと背を向けました。
「な・・・なるほど・・・。まさか俺の命はここまでかと不安だったが・・・命に別状が無いならいいや・・・。貴重な情報をありがとう・・・。」
「えぇ、勉強になりましたわ。」
「これに懲りてやたら見境なくモンスターの落としたポーションを飲まないことね。」
「おぅ・・・。俺はもういいから・・・いきな・・・。」
その人はそれだけ言って壁にもたれかかりました。
「俺はここまでだ・・・所詮その程度の男さ・・・。」
やたらかっこつけているようですが・・・あの場面のあとでは効果はない・・・というよりむしろ逆効果。わたしはその人を励ましておいて先へと進むことにしました。

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3.「フェル」

「・・・あの先に何かありますわね。」
「じゃ・・・行きますか・・・。」
相変わらずのローテンションでリッシアが言います。とはいうもののこの先は戦闘ですのでリッシアは魔法を唱え始めます。
わたし達の前に塞がっているのは・・・おおきなゴーレム。どうも岩ではなくて粘土のようなやわらかい土でできているような感じです。
「とりあえず硬いから気をつけてね。・・・オーア!」
リッシアは言いつつ、わたしにオーアの魔法をかけます。わたしの身体を黄色く淡い光が包みます。
「もういっちょ、オーア!」
今度はリリスさんの身体を黄色くて淡い光が包み込みます。二人の攻撃力が上がったのです。
「えーい!」
リリスさんが槍を構えて突っ込みます。ちなみにその槍は先ほど拾ったロングスピア。誰のものかは不明ですが・・・宝箱ではなく、そのあたりにまるで落し物のように落ちていたのでとりあえず失敬した次第。
ぐにゃり。
槍がゴーレムの身体にめり込みました。どうも硬さとやわらかさが奇妙に釣り合っているようです。
「二段斬りー!」
わたしはそれに追い討ちをかけるように二段斬りをします。しかし・・・。
ぐにょん。
一太刀目で剣がゴーレムの身体にめり込んでしまいました。
「うわわわわわっ・・・。」
「ど、どうしましょう・・・。」
ゴーレムのぶっとい腕がわたし達に迫ります。
「ホーリーム!」
勢いよく振られたゴーレムの腕に、リッシアの唱えたホーリーが直撃します。・・・いいえ、一段階上の魔法でした。多分、今まで精神を集中させて詠唱していたのでしょう。
それはゴーレムの体の一部を吹き飛ばしました。もちろん腕も。
「うごご・・・。」
ゴーレムが奇妙なうめき声を上げてよろめきます。動きの反動ではまっていた剣と槍が抜けました。そしてわたし達はどってんとしりもちをついてしまいました。
「武器がダメなら・・・。」
リリスさんはそういいながら足元にあった握りこぶし大の石を掴むと思いっきり投げつけました。
石は、まっすぐゴーレムの頭に当たりました。その衝撃によるものか、ゴーレムの身体が微妙に変形しました。とても不恰好です。
「ええぃ!」
わたしはその頭めがけて鞘を振り下ろしました。また、衝撃でゴーレムの頭が歪みます。先ほど以上に不恰好です。
「二人ともどいて!」
リッシアから大きな魔力を感じます。今まで溜めていたマナがリッシアから溢れています。
「フレイリム!」
「フリーズム!」
リッシアの手から炎が溢れました。それはまっすぐゴーレムを焼き尽くします。と、同時にわたし達の横手から別の声と一緒に氷の嵐がゴーレムを襲いました。
「うが〜!」
また奇妙なこと共に、ゴーレムは氷像となって崩れ落ちました。
「・・・・・・?」
それよりもナニゴトかと、わたし達は氷の魔法が飛んできたほうを見ました。
「はぁ〜い。だいじょぶ?」
そこには、リッシアと同じ緑の髪と、灰色のネコミミとしっぽをもったきれいな女性がピースをしながら立っていました。胸にはこれまたリッシアと同じ赤いオーブ・・・。
「いやー、世の中には何人か似てる人がいるって聞くけどその通りねー♪」
その人はにこやかな笑顔と共にこっちまでやってきました。どうもその感じが前に見たことがあるような気がしてなりません。デジャヴュというやつでしょうか。
「・・・あんたなにもの?」
リッシアが単刀直入に聞きます。確かに、この場合あれこれ聞くよりすぱっと聞いたほうがよさそうです。
「ん、わたしが例の『遺跡から出てきたヒト』でぇ〜す。特別賞の一万五千ティンをもらうなら私を連れえ行けばいいよ〜。それから・・・」
言いながらその人は懐から真紅のオーブを出しました。胸に着けているものとはまた少し違うようです。
「これが『何かすごいお宝』。もってけば見事賞金十万ティン〜♪」
そういいながらまた何故かコチラにむかってブイサイン。
「・・・エセモンね。」
すぱっと言い放つリッシア。相変わらず手厳しい・・・。
「あれ。お金に換えないの?」
「いらない。」
「ひ・・・人をお金に換えるのは・・・。いくらなんでも気が引けますわ。」
「あららららら・・・。勿体無い・・・。」
心底もったいなさそうにその人は言います。ネコミミとしっぽがくてんと力なく垂れます。
「なんだか・・・リッシアさんに似てますね・・・。」
「ん〜ふふふ・・・。似てる?」
「聞くな。」
「あちゃ、ごめんなさい。でも、せっかく見つけてくれたわけだし、わたしもあなたたちについていくね。」
「えぇっ?!」
「あれ・・・ダメかなぁ・・・?」
再びその人のネコミミとしっぽが垂れます。どうも感情の起伏の上下差が激しいようです。
「い、いえいえとんでもないっ!」
「じゃ、きまりね!わたしはフェル。よろしくね♪」
そういってその人はまた心底嬉しそうな顔をしてにっこり笑うのでした。
「わたしはリア。それからこちらがリッシア、リリスさんですわ。」
「よっ、よろしくお願いしますぅ。」
「・・・・・・。」
リッシアはかなり嫌そうな顔をしています・・・。
「ちょっと。」
「はい?」
「ほんとー、にあの人連れて行くつもり?」
「・・・イヤ・・・ですか?」
「イヤ。」
実にきっぱりずぱっときれいさっぱりリッシアが言います。
「そんなスピャーっと言われましても。今更それは・・・。」
「あー、やれやれ・・・。なんだかなー・・・。」
リッシアはそんなに人に会うのがイヤなんでしょうか・・・っていうよりはこの場合相手が悪かったんでしょうねぇ。リッシアによく似てますし。
そんなこんなで正体不明のフェルさんをパーティに加えつつわたし達の遺跡探検は意外とあっさり幕を閉じたのでした。

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4.「次の場所へ」

無事にリタイア届けを出したわたし達は、次に行く場所をたいして決めずにとりあえずレングレルの北のほうの船着場までやってきました。
道中、フェルさんがすばらしい剣捌きを見せてくださったり、リリスさんがそれに見とれて石につまずいたり、リッシアがさりげなくフェルさんに突っ込んだり・・・。
フェルさんって何者なんでしょう・・・。
剣だけじゃなく魔法の腕も相当のようで、かなり心強い仲間ができました。・・・リッシアは至極不機嫌でしたが。
「で・・・乗るの?」
「そうですわね。乗っちゃいましょ。」
「ん。乗るんならサクサク乗っちゃいましょ。」
こうしてわたし達4人は乗船。流れていく潮の流れがとてもゆっくりしています。どこへ行くんでしょう。
「・・・そういえば・・・どこに行くんでしょう?この船。」
「ぇあ?行き先見ないで乗ったの?!」
リッシアがものすごい顔でこっちを見ます。当然といえば当然かもしれません。
「まぁ、何とかなるのではないですか?次のところの悪い噂も聞きませんしね。」
「なせばなる〜。ま、大変なことって言っても本当に大変なことはそんなに起きないし。どんなことがあっても大抵はなんとかなるものよ。」
フェルさんがにっこりとリッシアに向かって言います。・・・どうもリッシアはこのまじりっけの無い笑顔が苦手のようで・・・。
「フェルさんは相当旅慣れてるんですね。」
「まぁね〜。」
(こ・・・っ、こいつら・・・。)
「ところでフェルさん、さっきのすごい剣捌き、思わず見とれちゃったんですけどクラスはなんですか?」
リリスさんはフェルさんに興味を持ったようです。まぁ誰でもなるでしょうけど・・・。
「パラディンよ。」
「え?」
「うそっ?」
わたしとリッシアはほぼ同時にフェルさんのほうを向きました。すごい方だとは思っていましたがそこまで・・・。
「驚いたー?一応ライセンスはちゃんともってるよ〜。」
「ほ、ホントですか?ぜ、ぜひっ!」
リリスさんが身を乗り出しました。そこにフェルさんがカードのようなものを渡します。
「・・・・・・?!あわわわわ・・・トリプルAクラス・・・!!」
「えぇーっ?!」
トリプルAクラスのパラディンといえばお兄様ほどの腕があったとしてもなれるかどうかわからない超高位クラス!・・・のはず。そんな方とこうやってお話ができるとは・・・。

夕凪の海の上を走る船の上で、リッシアとフェルが沈んでいく夕日を眺めています。・・・いいえ、リッシアはフェルのほうをずっと見ていました。
(このフェルって人・・・ホント妙ね・・・。普通にヘンなんだけど・・・別の意味でもやっぱりヘン・・・。なんだかやたら無理にわたし達に溶け込もうとしてるし、魔力の波動が完全にわたしと一緒だし・・・。)
「?」
リッシアの視線に気がついたのか、フェルがそちらを向きます。そして、ブラウスで覆い隠されていない腰に手を当てて、妖艶に微笑みました。
(ぐ・・・。ここぞとばかりにナイスバデェを見せ付けやがって・・・。覚えてなさいよ・・・。あと十数年後のあんたがシワヨボのときには・・・。)
と、そこまで考えてリッシアは考えるのをやめて顔を伏せます。
(・・・何考えてんだか・・・あたし。)

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こうして3人は得られたものは特に無くなんとなくレングレル大陸を後にしたのでした。
フェルという、奇妙なおまけを伴って。
彼女は何者なのか。
・・・というようなことは不覚気にせずに、彼女達は今日も旅を続けるのでした。
そして、お話の舞台は次の大陸へ・・・。
彼女たちの旅はまだまだ続きます。が、そのお話はまた次の機会に。


第三話へつづく。