ここはどこぞの世界・・・。
名は・・・「フェイレン」とかいったかな?
わたし達が住んでいる世界とは違い、剣と魔法が三度の飯並に当たり前な世界・・・。
ある国では戦争で人々が苦しみ
ある国ではのんびり平和に暮らし
ある国では年中お祭り騒ぎ・・・。
ある冒険者は苦しむ人々のために魔王討伐
ある冒険者は富と名誉のためにひた走り
ある冒険者はクエスト探しては遂行失敗し
ある冒険者は仲間探しに苦労し・・・。
これから展開される話はちょっと奇妙なお話・・・。
まぁ、他の冒険者から見ればどうだっていい話ですが・・・。
一人の女性剣士と一人の女性僧侶・・・。
そんな二人が織り成す珍道中・・・。
一人は前回までのお話の主人公「ライ」の妹「リア」。
もう一人はライと知り合い勇気を身につけたちいさな僧侶「リッシア」。
リアはライの元を離れ、一人前の冒険者になるべく冒険を、リッシアは彼女をサポートするため、そして魔法を極めるために今までの魔法を一部封印し冒険を・・・。
そして2、3日が経ちそんな彼女達は今日もどこかの空の下で自由気ままな旅をしているのでした。
最初のお話はそんな二人がとある大陸についたときのお話。

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0.「リア」

わたしの名はリア・ベイティクス。
駆け出しの冒険者。
ついこの前まで、街から出た事が無かった「箱入り娘」ですの(笑)。
わたしは一人前の冒険者になるためにこれからあちこち旅をしようと思います。
お兄様に負けないような立派な冒険者になってみせますわっ!

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1.「ヴァルキリー」

「いよいよね・・・。」
「えぇ。わたし達の冒険が始まるのですね!」
船の上を通り過ぎる風がとても心地いいですわ。
レグアを離れて、わたしはパートナーと一緒にレムジスという地方へ向かっているところですの。
「ねぇ・・・その『お嬢言葉』なんとかなんないの?」
この子はわたしのパートナー。
・・・いいえ、“子”なんていったら失礼ですわね。
この方はリッシア・フェルナンデス。わたしのよきパートナーですわ。
8歳の頃に呪いをかけられてしまい、体がそれ以来成長しなくなってしまったの。・・・今は24歳。
でも、ついこの間お兄様と協力して呪いを解いたそうですわ。
ちょっとキツい所もありますけど本当はすごい寂しがりや。ご両親とほとんど暮らしたことが無いみたいですの。
これからもずっとお世話になることでしょう。
「ちょ・・・ちょっと無理ですわ。物心ついたときからこれでしたので。」
「・・・ま・・・いいかぁ・・・。」
リッシアはそういって船の縁に両腕を乗せてその上に顔をのせました。
「それにしてもさ・・・レグアを出るときのライさんはすごかったわね・・・。」
「そんなことはないですわ。」
「えぇ?すごかったじゃんよ。」
「やっぱりお兄様は素敵ですわ!強くてかっこよくて・・・冒険者の鏡ですわ!」
「あーいうトコは無視かい。」
お兄様、というのはわたしの5つ年上のライお兄様。わたしが小さいときからなにかと私の面倒を見てくれた優しいお兄様ですわ。
この間大きな冒険を終わらせて、そのとき一緒になったシミュウさんと結婚して今はレグアで暮らしていますの。
「あ・・・そろそろ着きますわ。下船準備をしなくっちゃ。リッシアさんも手伝ってください。」
「へーい。」
船はゆっくりとレムジス大陸西の玄関口カンラの船着場に入っていきました。
わたしたちは荷物を背負うと他の人たちと同じように船を下りました。
「えぇっと・・・ここから北にしばらく歩くと大きな町に着きますわ。」
お兄様からいただいた地図を開きながら、わたしは船の中で聞いた話を照らし合わせて呟きました。
「カンラだっけ?」
「はい。」
わたしの後ろから歩いてきたリッシアが荷物を背負いなおしながら聞きました。
「改めてよろしくお願いいたしますわ。リッシアさん。」
「呼び捨てでいいわ。このさいお互い呼び捨てで行きましょ。」
「それもそうですわね、リッシア。」
地図を仕舞いながらわたしは微笑みました。
「それでは参りましょうか、リッシア。」
「えぇ。」
こうしてわたしたちは冒険の第一歩を踏み出しました。
カンラの町までは数十分ということでしたがそんなに思ったよりはかかりませんでした。モンスターさんに遭うこともなく、順調にわたしたちはカンラに到着しました。
「さて・・・最初のお仕事を探しましょう。」
「見つかるといいわね。初心者がいきなり仕事にありつけるなんてことは滅多に無いことだからね・・・。わたしも昔は苦労したわ・・・。」
「そ・・・そんな遠い目をしなくても・・・。」
あまりに遠い目をしてため息をついたリッシアはやっぱり見た目は子供でも熟達した冒険者の雰囲気がします。わたしもこれくらい慣れた言葉が言えるようになるでしょうか。
なんだかんだとやっているうちにわたしたちはなんと言うことも無くアドベンチャーギルドに到着しました。道具屋さんの2階にあったのでちょっとビックリしました。なんといってもわたし最近まで故郷の村から出たことがなかったので。
「あの、わたし初心者の冒険者でクラスは無い者なんですけど何かお仕事はありませんか?」
カウンターで本を読んでいたおじさまはわたしの声を聞いて愛想のいい笑顔を浮かべて聞いていましたが、わたしが言い終わってから傍らにあった台帳を手に取りページをめくり始めました。
「んー・・・と・・・お嬢さんには失礼だけどおいくつだい?」
「16ですわ。」
「クラス無しの16・・・ね・・・。」
おじさまはそう呟きながらもう一度ページをめくり始めました。しばらくして、ひとつのところでその手が止まりました。
「キミにはこれくらいしかないかなぁ。『ヴァルキリーの加勢』。うん。」
わたしはしばらく考えましたが町に入って最初のリッシアの言葉が気になったので受けることにしました。
「引き受けさせていただきますわ。」
「そうかい?それじゃぁ、依頼主に連絡しておくから、この町の北にある『カンラ・ヴァルキリー団』へ行ってくんな。」
「わかりましたわ。」
わたしは挨拶をそこそこにアドベンチャーギルドを出て町の北にあるというヴァルキリー団の基地を目指して歩き出しました。
「思ったより簡単に見つかったのねぇ。なんかちょっぴり悔しいかも。」
リッシアはまた遠い目をしながら呟いていました。今度はわたしは何も言いませんでした。
「えぇーっと・・・ここ・・・みたいですわね。」
町の北にはギルドのおじさまが言ったとおりヴァルキリー団、と書かれた看板が立てられた区画に下りの階段がありました。どうやらここがそのヴァルキリーさんたちの基地のようです。
「そういえばヴァルキリーとはどのような方々なのですか?」
何度も言いますがわたしは村から出たことがありませんでしたので。
「簡単に言うと女のランサーかしらね。普通のランサーよりすばやい動きが必要とされること以外は。」
「なるほど・・・。速攻が戦法なのですね。」
「まぁ、そんなトコ。」
ヴァルキリーさんの話をしながらリッシアと一緒に階段を下りました。
すると、そこにはきれいに整理された大広間が広がっていました。正面には熟練したヴァルキリーらしき女性がカウンターについていました。受付の係りなんでしょうか。
「あの・・・わたしたちアドベンチャーギルドでこちらの依頼を受けたものですが・・・。」
「あぁ、あの件ね。話は聞いているわ。それでしたらあちらの部屋へ入ってください。そこで団長から詳しい話を聞いてください。」
「かしこまりました。」
受付の方にさされたほかの部屋より立派な構えの部屋に入ると、そこにはなるほど団長らしい威厳を備えた方がいらっしゃいました。隣には、エルフのヴァルキリーさんが控えています。
「あなたたちね、この仕事を請けてくれた初心者冒険者っていうのは。」
「そ・・・そんな風に伝わっていたのですか。」
ちょっとそれはあんまりですわ・・・。まぁ確かにその通りなのですけれど・・・。
「仕事の内容だけど・・・あなたたちにやって欲しい仕事と言うのはね・・・この子に根性をつけさせること。」
団長さんはそういいながら隣にいたエルフのヴァルキリーさんを指しました。
「り・・・リリス・ナミールスです・・・。よろしくお願いします。」
リリスと名乗ったヴァルキリーさんはそういいながらペコリとお辞儀をしました。
「あ、こちらこそよろしくお願いいたしますわ。」
わたしは一応礼儀としてお辞儀を返しました。
「実は、ここから北にある山の麓に魔物の巣が見つかったの。そこで誘拐事件が発生したのでうちが事件の解決と巣を潰すことを引き受けたのだけど・・・ベテランのヴァルキリーが引き受けるには手が余るくらいだし・・・だからこの子の根性つけさせるためにうってつけの場所だと思っているの。」
し・・・真剣みがなさ過ぎますわ・・・。
「でもね・・・1人だととんでもないことになりそうだし・・・というわけで強さが割りと近そうなあなた達にお願いしたってわけよ。」
「は・・・はぁ・・・。」
「・・・・・・。」
リッシアってばタルそうな顔を・・・。そりゃまぁ確かに旅なれた彼女からすればとんでもない仕事だとは思いますけど・・・。
「あ、そうそう。この子の強さを知ってもらうために1回ここで戦ってみてくれないかしら?」
「・・・え?」
団長さんの言葉にリリスさんは固まりました。
「わたしは構いませんわ。わたしの経験にもなるでしょうし。」
「んじゃきまりね。ここじゃ狭いから、ホールへ行きましょう。」
団長さんはそういいながら立ち上がって先ほどの大広間へと出て行きました。わたしたちはそのあとに続いて大広間へ。
「ここらでいいかしらね。じゃ準備はいいかしら?」
「あわわわわわわ・・・。」
「それじゃ、はじめ!」
団長さんはぴしっと言い放つと右手を上げました。
気を抜くと速攻かけられて終わりですわ。・・・多分。ここは気を抜かずに行かないと。
「あわわわわわわっ・・・!」
リリスさんは団長さんの声に慌てて槍を構えてようとして(それは普通の槍ではなくて訓練用のもの)それを落としてしまいました。わたしは団長さんに手渡された訓練用の竹光を握る手から思わず力が抜けていくのを感じました。
「・・・わたし、イチ抜けた。」
リッシアはそれだけ言って団長さんのところに行ってしまいました。彼女にしてみればよっぽど拍子抜けだったのでしょう。
一応・・・リリスさんもヴァルキリーのはずなので動きは速い・・・ハズですわね。なのでわたしはこちらも速攻で行くことにしました。
「二段斬り!」
一気に間合いを詰めて、二段斬りを放つ。リリスさんは・・・受け流せずにまともに食らってしまいました。
「ふみゃぁ〜〜〜ん!」
「・・・・・・。」
「ふぅ・・・。ここであなたたちに負けてもらったら困るんですよね。この子の力はこんなものなのです。」
「な・・・なるほど。」
「これからあなたたちは三人で北にある洞窟に行ってモンスターの根源を撃破していただきます。人質救出後、またここに戻ってきてください。」
団長さんはそういいながら応急処置をしているリリスさんに近づいて視線を無理やり自分にあわせて言いました。
「逃げるんじゃないよ。」
「は・・・・・・はい・・・。」
うしろでリッシアが、
「先行き不安だ・・・こりゃ・・・。」
と呟いたのは幸いわたしにしか聞こえなかったようです。

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2.「初仕事」

「はい、あんた失せて。」
リッシアが洞窟の奥にいたゴブリンと向き合うなりそう言った。
「リッシア・・・それは唐突過ぎ。お兄様よりひどいですわ。」
「やっぱりダメ?でもライさんは返せの一言だったよ?」
どっちもどっちですわ・・・。
「おまえら・・・ナメてんのか?」
「そ・・・それじゃ改めて。」
深呼吸ひとつ。
「あなたですわね!カンラで誘拐を働いたというのは!」
「そうだ!悪いか!」
・・・・・・。
「・・・なんでそこで間が開く?」
「そりゃ悪いに決まっていますわ。」
なんだかすっかり真剣みがなくなってしまいましたわ・・・。まぁ最初からなかったような気がしますけど・・・。
リリスさんはリリスさんでがたがた震えてるし・・・。
「さっさと仕事片付けましょ。あんた、ここで根性つけてもらうわよ。」
「ろひぃぃぃぃぃっ!!」
リッシアは言いながらリリスさんの背中を杖で小突きました。リリスさんは危うくこけそうでしたがなんとか持ちこたえたようです。
とりあえず本格的な戦いの始まりのようです。
「ファイア!」
リッシアが炎の魔法を唱え、火炎の弾がゴブリンを直撃します。わたしはそのわずかな間に肉薄して斬りつけます。
「アイス!」
わたしが後ろへ跳ぶ間にリッシアは更に氷の魔法をお見舞いし、ゴブリンの勢いを消します。
リリスさんはというと・・・恐怖で固まっています・・・。
「標的変更!俺の3連コンボを食らえ!」
ゴブリンはそういうと進路を変えてリリスさんに殴りかかりました。
「きゃぁっ!」
「ディーア!」
わたしは咄嗟に防御魔法を唱え、リリスさんを守りました。リリスさんの身体は淡い光に包まれて防御能力が上昇したおかげでゴブリンの攻撃はあまり効かなかったようです。
それでもリリスさんは攻撃を受けてしりもちをつきました。
「キュア!」
すかさずリッシアが回復の魔法を唱えてリリスさんの傷を癒します。
わたしはその間にゴブリンを攻撃してリリスさんからの距離をとらせます。
「あんたってホント情けないわね。死ぬ気でやらないとこっちが死ぬよ!」
リッシアはしりもちをついたままのリリスさんをしかりつけるとその身体全身を使ってリリスさんを立たせました。そして魔法を唱えます。
「オーア!」
するとまた淡い光がリリスさんを包みます。
「これで多少はあんたの攻撃も効くでしょ。ほら槍しっかり握って!」
おっかなびっくり槍を構えるリリスさんの背中を叩いてリッシアは戦線に復帰しました。
「二段斬り!」
二段斬りを放ちつつわたしは間合いを詰めます。そしてその瞬間に魔法を放ちます。
「エアロ!」
風が巻き起こりその風の刃がゴブリンを攻撃します。
「ホーリー!」
さらにその後ろからリッシアが魔法を放ち、その光の弾がゴブリンの顔面に直撃します。
衝撃でゴブリンが大きくのけぞりました。
「リリスさん!いまですわ!」
わたしが言い終わる前にリリスさんは大きく踏み込んでその槍を思いっきりゴブリンに投げました。
「えいっ!」
槍は真っ直ぐゴブリンのおなかに突っ込み、そのダメージでゴブリンはがっくと膝を折りました。
「ま・・・参った・・・。」
ゴブリンが言っている最中からその姿がゆっくりと薄れていき、しばらくして完全にその姿は消えてしまいました。あとにはリリスさんの槍だけが残りました。
「ま、ざっとこんなもんでしょ。」
リッシアがゴブリンの身体が消えたあたりに落ちていた針金を拾いながら、言います。
「じゃ、わたしたちの仕事はここまでね。わたしたちは『ヴァルキリーの加勢』っていう名目でここまで来たんだからね。はい鍵。折り曲げるんじゃないわよ。ンなことしたら大工でも呼んで扉ぶっ壊すしかないんだから。」
リッシアはぶっきらぼうに言いながらリリスさんに拾った針金を渡しました。
って・・・針金・・・が鍵?
もう少しまともな鍵は用意できなかったんでしょうかさっきのゴブリンさん・・・。
「え・・・え?」
「わたしらは先に洞窟の外で待ってるからね。」
リッシアは目でわたしを促しました。わたしは慌ててリッシアに駆けよります。
「レイミス!」
リッシアはダンジョン脱出の魔法を唱えました。
すると、わたし達の身体は光に包まれ私たち自身の身体もまるで光になったような感覚が全身を満たします。わたし達の身体は次の瞬間光の粒子となり、ものすごい速さで洞窟の中を入り口めがけて飛んでいきます。
洞窟の外に出た瞬間、また光が集まり始めそれは徐々にわたし達の身体をかたちどります。完全に光が収まったあと、わたしの目には洞窟の外の光景が飛び込んできました。
「ちょっと心配ですわ・・・。大丈夫でしょうか。」
「大丈夫でしょ。人間そう簡単にゃ死なないわよ。・・・彼女はエルフだけど。」
リッシアは伸びをしながらそういいました。そして、傍らにあった岩に腰を下ろしました。
わたしは心配だったので洞窟のホントに入り口のすぐそばまで行って待っていましたが、やがてしばらくするとリリスさんが子供を連れて戻ってきました。
「よかったですわ・・・。ちょっと心配でしたのよ。リッシアの案で。ここまで無事に戻って来れたら本当にわたし達の仕事達成ってことで会えてあなたを一人にしたの。」
「は・・・はぁ・・・。」
「もちろん何かあったらすぐに助けには行くつもりでしたわ。さ、リッシアが外で待ってますから行きましょう。」
「は、はい!」
リリスさんと一緒に洞窟を出ると、リッシアが岩に腰掛けたまま顔だけこちらに向けました。
「あ、無事に戻ってこれたみたいね。」
「はい。ちゃんと子供も守れましたわ。」
「とりあえずみんなで力をあわせればああいうヤツも倒せるってこと、それに時には一人でやらなければならないってこと。それを実戦で教えたかったのよ。悪く思わないでね。」
「は・・・はい・・・。」
「じゃ、いくよ。」
リッシアはそれだけ言うと岩から下りてさっさと行ってしまいました。
ぶっきらぼうで思いやりなんかないように見えますけどリリスさんを一番心配していたのは実はリッシアなんですよね・・・。こういうとき、ついぶっきらぼうになってしまうのは彼女が素直になりきれないだけで。
「あの・・・。」
「どうかなさいましたか?」
「り・・・リッシアさんって一体・・・。」
不思議に思うのは無理ないですわね・・・。
「そういえばまだ言ってませんでしたね。あの方はああ見えてもわたし達より8年ほど長く生きていらっしゃるんのですよ。小さい頃に呪いをかけられて体が小さいままですの。あ、まぁその呪いは先日解いたみたいですので心配はいりませんわ。」
「はわ〜・・・。」
「あのお姉ちゃんお母さんよりもしっかりしてる・・・。」
それはそれは・・・。でも案外納得できますわ・・・。
「そ、それじゃ団長さんに報告に行かないと。」
「あ、はい!」

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

「初収入ですわね!」
「ま、最初でこんだけもらえりゃ上等でしょ。」
アドベンチャーギルドから出たところで、わたしは地図を取り出しました。
「えーっと・・・ここから北東に行って湖を越えるんでしたわね・・・。」
「山をぐるっと回り込んでいかなきゃなんないのね。」
横からリッシアが覗き込みながら呟きます。
「でも距離的にはそう遠くないですわ。いまはまだ朝ですし今から出発すれば十分日暮れまでにはつけると思いますわ。」
「そうね。じゃ、行きましょうか。」
「えぇ!」
わたし達が連れ立って町を出ようとすると、町の入り口にヴァルキリーの団長さんとリリスさんが立っていました。
「昨日はどうもご苦労様。これから他のところに行くのね?」
団長さんは近づいてくるわたし達を見て笑顔で言いました。
「えぇ。湖を越えて次の町へ。」
「あの・・・それでしたらお願いがあるのですが・・・。」
わたしが答えると団長さんはおずおずと切り出しました。その感じを見てリッシアが顔をしかめました。
「なんでしょうか?わたし達にできることでしたら。」
「この子を一緒に連れて行ってくれませんか?あなた方と一緒に旅をすればこの子もだいぶ強くなれるでしょうし。」
団長さんの言葉が終わらないうちに、リッシアが心底嫌そうな顔をしました。わたしはそれを隠すようにしてリッシアの前に立ちます。
「わたしは構いませんわ。旅は道連れ、ですわ。」
リッシアには悪いかなとは思いましたが旅の仲間が増えるんですもの。わたしはすぐにOKの返事を出しました。
「ありがとうございます。ほら、リリス。」
「あ・・・改めてよろしくお願いしますぅ。」
団長さんと一緒にお辞儀をすると、リリスさんは足元にあった荷物を背負いました。
「それじゃ、行ってまいります!」
団長さんにもお辞儀をして、リリスさんは正式に私たちの仲間になりました。これからの旅がにぎやかになりそうです。・・・リッシアは終始無言でしたが。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

こうしてリアは初めての仕事を終えました。
この後、彼女は次の町――――ガウガンでも仕事を成功させ、冒険者として幸先のいいスタートを切ります。
彼女に同行を求めたリリスは2つの仕事をこなすうちになんとかそれなりに度胸がつきました。
互いの成功を喜び合う二人を尻目に、リッシアはモンスターの出現が今まで以上に多発していることにぼんやりとした不安のようなものを感じ取りこれからのことを懸念します・・・。
そんな三人は晴天の下次の大陸目指して旅立っていくのでした。


第2話へつづく。