ここはどこぞの世界・・・。
名は・・・「フェイレン」とかいったかな?
わたし達が住んでいる世界とは違い、剣と魔法が三度の飯並みに普通の世界・・・。
ある国では戦争で人々が苦しみ
ある国ではのんびり平和に暮らし
ある国では年中お祭り騒ぎ・・・。
ある冒険者はザコを倒しすぎて大金持ちになり
ある冒険者はアイテム集めでクエスト内容を忘れ
ある冒険者は仲間の結束を確かめ
ある冒険者はお互い・・・。
これから展開される話はちょっと奇妙なお話・・・。
まぁ、他の冒険者から見てもすごい話ですが・・・。
一人の男性剣士と一人の女性盗賊、そして冒険者志望の女性剣士・・・。
そんな三人が織り成す冒険活劇・・・。
今回のお話はライ達が魔界へ行ってしまったときのお話。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

0.「ライ」

俺の名はライ・ベイティクス。
フリファイター・・・というよりは・・・なんだろう・・・。
故郷はずっと北のアイシクルという寒いところだ。
今俺は故郷に帰ってきた・・・まではよかったのだが・・・。
まさか魔族が俺たちの世界を征服しようとしているとは。
俺はこの世界に吸い込まれてしまった・・・。って、ことは・・・俺がこの野望を潰すしかないのだろうか。
生きて帰ってはこれないだろうな・・・。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1.「魔界」

ひゅぅぅぅぅぅん・・・・・・っ!
かすかな唸り声を上げながらそれはまわり続けて・・・そして俺を吐き出した。
俺は思いっきり空中に放り出されたが、かろうじて体制を整えて着地した。
「・・・ここは・・・奴等の世界・・・か・・・。」
ゆっくり立ち上がりながら、辺りを見回す。混濁した茶色い海とすさんだ荒野。ここが魔界・・・。なんともまた趣味のわりぃトコだ。
振り返ると、さきほど俺が通ってきたワープゾーンらしきものがある。
「・・・・・・まさか・・・・・・な・・・。」
ため息をついて、俺は右足を一歩踏み出した。
ひゅぅぅぅぅぅぅぅん・・・・・・っ!
歩き出そうとした俺の耳に、1回聞いた音が飛び込んできた。
「・・・え・・・?」
思わず俺が振り返ると、俺のときと同じように空中に放り出されてだけど上手く着地したリアの姿が目に入った。
「ふぅ・・・。お兄様!」
「お前・・・どういうことかわかってんのか?」
近づいてくるリアを見ながら、俺は思わず言った。少し脅してみたつもりだが、リアは笑顔できっぱりとこう言った。
「構いませんわ。私は死ぬ覚悟ですわ!」
「・・・・・・。」
やれやれ、とため息をつきながら俺は頭を抱えた。
「今までお兄様にはご迷惑をおかけしてしまったんですもの。私はその恩返しがしたいのです。」
「・・・お前・・・・・・わかった・・・。」
ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅん・・・・・・っ!
「は・・・?」
またしてもあの音があたりに満ちた。ワープゾーンらしきものを見つめていると・・・。
「ぅわぁっ?!」
なかからシミュウが現れた。俺やリアと違ってびしゃっと着地できずに地面にのめり込む。
「あぅ・・・ライー!・・・あ、リアちゃんも!」
「・・・・・・お前もか・・・。」
シミュウは起き上がってぱんぱんと服の汚れを叩き落とすと、微笑んだ。
「僕は決めてるんだもん!ライに尽くすって!・・・あ、それに報酬払ってないし・・・。」
「死ぬ覚悟で来てるんだな・・・?」
「もちろんだよっ!」
「わかった・・・。」
三人が揃って、後はリッシアだが・・・。
「・・・リッシアは・・・?」
「リッシアちゃんは・・・多分・・・こないと思う・・・。」
シミュウが残念そうにうつむく。だが、無理もない。
「そうか・・・。」
それだけ言って俺は先ほど進もうとした方向を向いた。不毛な大地の先には山に囲まれたところに森が形成されている。
「・・・よし・・・行くぞ。」
二人は無言で頷いた。こうして俺たち三人は魔界の大地を闊歩する。

魔界は、流石に魔族の本拠地だけあってモンスターはつわものぞろいだ。
地獄の業火で強化された魔海と同じ色のヘルスライムやヘルゴブリンが次々と襲い掛かってくる。
俺たちは、こんなところでやられるわけには行かない、と適度に戦い適度に逃げながら見えていた森の入り口に到着した。
「広そう・・・。」
森全体を見回してシミュウが言った。それはまったくその通りで、鬱蒼とした森がそこにはあった。そして、その森の中には魔界独特の瘴気が漂っている。
「油断は禁物ですわね・・・。」
リアが剣を抜きながら呟いた。俺は無言で頷くと、先頭に立って歩き出した。

魔の森、といって差し支えなかった。モンスターだらけだ。ミノタウロスやらリッチやら、強力なモンスターがたくさんいる。 「シミュウ!後ろだ!」
ヘルゴブリンを斬りながら、叫ぶ。シミュウはミノタウロスに例の謎の爆発魔法を浴びせかける。その隙をつこうと後ろからヘルスライムが襲い掛かった。が、しかしそれはリアの一撃で真っ二つになった。
「お兄様、下がって!」
リアの髪がはためく。魔力がリアから吹き出ていることを確認して、俺はヘルゴブリンを押し返して後ろに大きく跳び退った。
「トルネード!」
魔力が解放されてそこに風が吹き荒れる。モンスターたちはその風の刃をまともに受けて傷を負う。
「いまだ!」
剣を一閃させて俺はヘルゴブリンを斬る。そして、返す刀でミノタウロスに切りつけて、最後にミノタウロスの鳩尾にシミュウのぶっとばすがきまった。
「ふぅ・・・。流石にここまで来るときついな・・・。」
「そうだね・・・。」
上を見上げてみるが、木々が生い茂りよく見えなかった。いまどれくらい進んだのかがさっぱりわからない。
「あら、お兄様、分かれ道ですわ。」
リアの言葉にはっとなる。
そして、前を見てみるとまさしく分かれ道だった。右と、左に道が枝分かれしている。
「どっち・・・いくの?」
「うーん・・・。」
腕を組んで唸る。まぁそんなことをしてみてどうかなるわけじゃないんだけど。
「両方とも同じところに繋がっている・・・・って、ことはないですわね。」
「んだな。まぁ、悩んでもしょうがねぇさね。」
「そうだね。」
と、いうわけで何も考えずに右に進んだ。これは後で考えるとよかったのか悪かったのか・・・。
「だんだん・・・道が細くなってきたな・・・。」
歩きながら思わず口走る。だがその通りで、道幅がだんだん狭まり、草が生い茂り始めた。
「間違ったのかなぁ・・・。」
「とりあえず、いけるトコまでいってみよう。そこでダメだったら引き返す。」
喋りながら歩いていると、いきなり視界が開けた。
そこだけ鬱蒼とした木はなく、ぽっかりと空を拝むことができる。魔界らしい毒々しい色だけど。
「なんなんでしょうかここ・・・。」
ちょっとした部屋、という感じだ。中央に一つだけやたら大きい木が鎮座している。この森のボスなんだろうか。
「ねーねーライー!なんかはまってるよぉ。」
シミュウが警戒もせずにその気に近づいているのに気がつくのはその声を聞いてからだった。
「なんかって。お前何があるかもわかんねーのに・・・。」
「まぁまぁお兄様。綺麗な宝石みたいですわよ。」
リアもいつの間にかそこによっている。まぁいいかと俺も木に近づいてシミュウが何かははっていると指差したところを覗き込んでみる。
「ほう。なかなか綺麗だな。」
リアのいったとおり、何かの宝石のような深い緑色の石らしきものが気のちょうどウロになっているところにはまっていた。暗い中でもわずかに光を放っているように見える。
「きれいだね〜。なんだろうね、これ。」
シミュウがうっとりと見とれている。一応、危険があるようなものではないようだ。
「危険はなさそうだな・・・。持ってくか?」
「おっ、お兄様?いいのですか?」
「いんじゃね?折角見つけたんだし。」
「そんな安易な・・・。」
「じゃ僕が取る〜。」
シミュウがいいながらそれに手を伸ばす。掴んで、しばらく固まっていたが、ゆっくりと引き抜いていく。しばらくして、それは完全に木から離れた。
そしてしばらく待ってみたが、特に問題はなさそうだ。
「“森の想い”とでも名づけておくか。」
「うん!」
シミュウはにっこり笑って、それ――――森の想いを懐に仕舞いこんだ。
「うし、行くか。」
「えぇ。早くここを抜けてしまいましょう。」
ここからは先に進めそうになかったので、俺たちは来た道を引き返して道の分かれていたところまで戻ってきた。そして、改めて今度は左の道を進んだ。
森の想いを手に入れてから、なんだかモンスターが弱くなったように感じるのは気のせいなんだろうか。
なにはともあれ、一応無事に魔の森は脱出できたのだった。
「・・・ん?あれ・・・家か?」
魔の森を出たところで、一軒の家が目に付いた。そう小さくは無い。恐らく10人くらいは余裕で生活できるだろう。
「あら、ホントですわね。誰かいらっしゃるんでしょうか?」
リアとシミュウもそれを見つける。人が住んでいるという形跡はここからではよくわからない。
「いってみようよ、ライ。なにかいいことあるかもしれないよ!」
「相変わらず楽天的な・・・。・・・とはいえ、結構あの森の中で体力使ったしなぁ。休憩くらいできれば上等だな。よし、行ってみよう。」
「賛成ですわ!」
と、いうわけで俺たちは目に付いた家に入ってみることにした。森の出口からはそう遠くなかった。歩いて数分。それでついた。どうやら、誰かが住んでいるであろう形跡がある。人間ならいいけどな・・・。
それにしても・・・。
「見るからに怪しい家ですわね・・・。」
いやまったくもって。
こんなところにぽつんと一軒だけ建っているっていうのも怪しいが、その外見がかなり・・・オカルトなムードが漂うつくりなんだよねぇ。モンスターの家・・・だったら・・・逃げるかな。
「入る・・・のか?」
「どうしよう・・・。」
「ここまで来て言うのもなんですけど・・・入りづらい雰囲気ですわ。」
と、こういう感じで俺たちが立ち尽くしていると。
「・・・誰だ!」
玄関らしきところの扉が開いて、誰かが現れた。
「!も、モンスター?!」
まさしく、モンスターだった。それも、かなり強い部類の。
「うげげげげっ。魔族の民家に迷い込んでしまったのか?」
「ど・・・どうします?」
逃げ腰の俺たちを見て、そのヨロイのモンスターははっとしたようにして手を出した。
「も・・・もしや人間界から来た方々では?」
「・・・え?」
「人間に化けたモンスターという気配はしない・・・。あなた方は、人間界から来たのですな?」
いきなりの展開に付いていけない俺たち。
「そ・・・そういうことに・・・なるんか?」
二人のほうを見ながら俺はとりあえず同意を求めた。
「なるんじゃ・・・ないかなぁ・・・。」
「いや・・・驚かして申し訳ない。とりあえず、道中疲れたであろう。中で一休みしてくだされ。」
と、いうわけで俺たちはよくわからないままにその家の中に入ってしまうのであった。

「まずは・・・我々のことを話そうか。この世界ではそなたらの世界に攻め込もうという計画が上がっておる。その計画が上がったとき、我ら魔族は二つに分かれた。賛成派と・・・わしらのような反対派とに、な。わしたちは静かに暮らしていきたいのだ・・・。だが・・・そのうち賛成派と反対派が戦争を始めてしまった。不毛な・・・長い長い戦争だ・・・。」
ヨロイはそこまで言って、ため息をつきながらうつむいた。
「・・・魔界も大変なんだね・・・。」
「ところで一つ聞きたいんだが・・・なんで俺たちが人間界から来たと?」
「うむ・・・。そなたらは空間の裂け目からこちらに吸い込まれてしまったのであろう?」
「ん・・・なんでそれを?」
「あれは・・・賛成派の奴等の軍事装置だ。人間界にあのような裂け目をいくつも設置し、人間を引きずりこむ。そして、自軍を強化するためにその人間をモンスターに改造してしまうのだ・・・。」
「なんてことを・・・。」
「そう・・・ひどいものだ・・・。現にわしらもそうだ。もともとは人間界から来たのだからな・・・。」
「何とかならないのですか・・・?」
「・・・・・・首謀者である魔王・・・レムリアを倒すことができれば元に戻る。そのことは先の調べでわかってはいるのだが・・・われらにはやつに対抗するだけの力を持つものはいないのだ・・・。」
「・・・・・・俺たちがそのレムリアとやらをノしてきてやろうか?」
「・・・んな・・・!何を!やつに叶うはずが無い!」
「最初から諦めていたら何もできませんわ!私たちにお任せください。」
「そうだよっ!」
ヨロイは、それを見て、嬉しそうに含み笑いをもらした。
「そなたらは・・・なんというかこう・・・生きた目をしている・・・。そなたらにならできるやもしれんの・・・。」
ヨロイはゆっくりと立ち上がると、家の奥に消えた。そして、なにやらやっていたようだがしばらくしていくつかの武器を持って現れた。
「いいだろう・・・そなたらに任せよう。何もできないが・・・疲れたらここで休んでいくがよい。それから・・・これを。」
そういって、ヨロイは俺たちに3つの武器を差し出した。
「・・・これは?」
「そなたらにこれを渡そう。せめてもの報酬代わりに・・・受け取ってくれ。」
ヨロイから武器を受け取った俺たちは、それとヨロイとを交互に見つめた。
「このグレートブレードも・・・そなたなら扱えるであろう。それからそこなお嬢さんならばこれがちょうどいいであろう。スライサー・・・。鉄のブーメランを強化したものだ。そして、このルーンブレイド君に・・・。マナをいくらか消費するがそなたほどの魔力の持ち主ならば問題なく扱えるだろう。」
「・・・いいんか?」
「構わんよ。魔界の戦争を終結させるということは、世界中の平和を護るということだからな・・・。期待しているよ。」
ヨロイは、そういって俺の背中をポンと叩いた。
「今日はここに泊まっていきたまえ。英気を養うことも大切だ。」
「お言葉に甘えさせてもらう。」
ヨロイに案内されて俺たちはベッドのある部屋にやってきた。
モンスターの姿に変えられたものが床として使っているわりには普通の宿屋のような部屋とたいして変わらない。
「・・・おぉ、そういえば・・・そなたの名は?」
部屋を出ようとして、ヨロイが振り返りながら言った。
「ん・・・。ライ。ライ・ベイティクスだ。」
「僕はシミュウだよ。」
「私はリアですわ。」
「・・・ライ殿、ごゆっくり。」
そういってヨロイは扉を閉めた。その足音がだんだんと遠ざかっていく。
今夜は魔界であるにもかかわらずぐっすりねむれそうだ・・・。

2.「飛行船」

「魔王軍の本拠地は、ここから西の孤島にある。飛行船をつかわなければ行けないのだ。東にわしの友人がいて、彼が飛行船を持っている。早馬で連絡をしていくから、そこで飛行船を貸してもらってくれ。」
「あぁ。サンキューな。」
ヨロイのおっさんに見送られて、俺たちはその家を後にした。東とはいっても、東は山で閉ざされているため一旦北に回ってから東だ。
おっさんからもらった武器はなかなか強力だ。ミノタウロスなんかの大きなモンスターにも比較的ダメージを上手く与えることができる。リアもシミュウも早々とその武器を使いこなした。
そうやって次々とモンスターを倒してく俺たちを見て流石に怖くなったのか、手を出してくるヤツがぐっと減った。まぁ、そのほうが楽っちゃ楽だから別にいいんだけど、ちょっと退屈。
そんなこんなで飛行船があるというところまで辿り着いたわけなんだが。
「・・・お。お前らだな?魔王軍に挑もうとしてるクールなやつらって。」
「あぁ。」
クールってほど冷静だとは思わんが否定するほどのことでもないので黙っておく。ていうか、ゾンビからクールなんてカタカナが普通に出てくるとは。
「約束の飛行船はあれだ。」
そういってゾンビは後ろを向いた。
そこには、確かに飛行船があった。まぁ、見てその構造也なんなりはわからないからとりあえず少しだけ驚いたふりをする。
「けどな・・・この間魔王の四天王の一人にエンジンを奪われちまってな・・・。壊されなかっただけ良かったと思うべきなんだろうが・・・。これを貸す代わりにっていっちゃぁなんだけど、エンジンを取り返してきてくれねぇか。やつらはハウトの北にある洞窟にたてこもったって情報もついでにくれてやる。」
「・・・あぁ、構わんさ。」
「疲れたらここで休んできな。ホントになんもねぇとこだけどよ。モンスターには襲われねぇから。」

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

「・・・・・・私の意気地なし・・・。どうしてあそこですくんでしまったんだろう・・・。」
リッシアはひとりアイシクルの船着場で海を眺めていた。冷たい風が彼女の緑の髪を振り乱す。
そんなリッシアの後ろに、ダンが現れた。そして、息を大きく吸い込んで。
「ターーーーコ。」
「?!あんたは!」
ダンに声にリッシアは後ろを振り返る。そこには、まごうことなきへっぽこ魔法使い疾風のダンがいた。
「とりあえずこの前お前に言われた言葉、返しとくぜ。」
突然のダンの出現に、リッシアは戦闘体制をとった。その動きを見て、ダンは両手を上げた。
「おっと、ここでお前とやりあうつもりはねぇ。」
少し疑ったリッシアだったが、どうやら本気らしいとみて姿勢を崩した。
「ったくよ。ホントおまえきにくわねぇ。うじうじうじうじうじうじうじうじしやがってよ。あいつらは仲間なんだろ?だったらどこまでも着いていかねぇか!」
「だ・・・だって・・・!」
「・・・バカモン!」
ダンは、しかりつけるとリッシアの胸倉を掴んで顔をリッシアに近づけた。
「お前はあいつらを仲間だと思ってねぇのか?本当に仲間だと思ってるんなら、どこまでも着いていけるはずだろうが!」
それだけ言うと、ダンは踵を返した。その瞬間に彼のトレードマークである黒いトンガリ帽子と青い髪が揺れる。
「・・・ま・・・意気地なしのお前にゃできねぇか。」
「・・・・・・・・・。」
「俺はライが魔界から帰ってくるまで魔法の修行だ。いつかあいつをギャフンといわせてやらぁ!あばよ!」
「・・・・・・ダン・・・。」
リッシアは、まるで親に叱られたようにうなだれた。そして、もう一度身体を反転させて海を見た。
寒冷地方の海は、南国のそれとは違い荒々しく、冷たい風を運ぶ。そして、その海がまるでリッシアを鼓舞しているかのように、強く岸壁に打ち付けた。
「あ!お前!この間密航しやがっただろ!」
「え?あ・・・いや、そのあれは・・・!わぁっ!ちょっ、まっ・・・」
「問答無用!出てけー!」
「ぬおぉぉぉぉぉぉ〜!!!」
船着場の窓から、勢いよくダンが飛び出ていき、そして冬の海に落下した。
「おっ・・・お前もこれくらいの根性だせェ〜・・・・・・!ごぼぷぱぴぷぷぷぷ・・・。」
決め台詞なのか捨て台詞なのかわからないことを口走って、ダンはアイシクルの潮流に流されていった。
「・・・・・・。」
その様子をリッシアは唖然として眺めていたが、やがて決心を決めたのか勢いよく振り返った。
そして、樽の上に乗っていた淡い緑色の宝石のようなものを見つけた。そして、それで押さえてあるのかそれの下に一切れの紙があった。
「・・・餞別だ・・・?」
ダンが書いたと思われるその紙切れを握り締めて、リッシアはその不思議なものを懐にしまった。不思議とあったかいような魔力が満ちていた。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

「この洞窟かなぁ。」
ゾンビに言われたとおり、ハウトの北にあるという洞窟を見つけた。ハウトがなんなのかわからなくてついつい道に迷ってしまいその道中で“水の想い”を手に入れてしまったりしたのだがそれは言うのは止めておこう。あのことを言わねばならないし。
で。
ハウトがヨロイのおっさんの家だと知ったのは疲れたからおっさんの家まで戻った時だった。おかげでまぁ、足腰が強くなったりしたがな。
「松明がいるほど暗いってワケじゃなさそうだな。」
「魔界の洞窟って雰囲気はありませんわね・・・。」
確かに・・・その洞窟は普通の洞窟と大差ない。まぁ・・・魔界ムード満点の洞窟も困るが、なんか拍子抜けだ。
入ってみてもそう暗くは無い。標準的な洞窟と同じくらいだ。まぁ、四天王とやらがいるからなのかは知らんがさすがに表よりはモンスターが多いがな。
基本的に一本道で、迷うことなく最深部らしいところに辿り着いた。
部下も連れていない四天王らしいヤツが構えている。
「返せ。」
「んなっ?!おまえっ、トートツ過ぎるぞ!」
「はよ返せ。」
「お前俺をナメてんのか?!」
「だから返せって。」
「このやろう〜・・・ここまでコケにされちゃぁ俺の名がすたる!」
「・・・お兄様・・・。」
「あぁそうそう、おれ、ストーンマンな。一応、四天王の一人。」
「へー。」
「っ!このやろう!」
どうやら戦闘らしい。ストーンマンと名乗ったそいつは攻撃対象は俺しかみていないらしい。他にも二人いるのに。
「ディーア!」
リアの魔法を受けて、俺の防御力があがったらしい。ストーンマンの攻撃があまり効かないようになった。流石に斬られると痛いが。
ストーンマンの斬撃をかいくぐり、腹に三段切りをお見舞いする。そして、そこにシミュウお得意のぶっとばすが炸裂する。・・・いつもより爆発が大きいなぁ。ぶっつばす・すごいと呼んでおこう。
「このやろう!クエイク!」
「させませんわ!トルネード!」
ストーンマンがクエイクで石つぶてを呼ぶが、それに対してリアがトルネードを唱えて吹き飛ばす。石つぶてと風が収まる直前俺はそこを突き抜けてストーンマンに短冊切りを放った。
「え〜い!」
そして、その顔面にシミュウのスライサーが入り、ストーンマンはゆっくりと後ろにぶっ倒れた。
「出番は・・・これで終わりか・・・。」
そんなこと言ってる場合ではないと思うのだが・・・。
とりあえず、ストーンマンが持っていたと思われる宝箱が二つ。 開けてみると、そこには小型エンジンともう一つは、オレンジ色の宝石のようなもの・・・。
「これ・・・この間森で手に入れたのと同じ種類のものかなぁ・・・。」
シミュウが横から入り込んでそれを眺める。
「わからんが・・・とりあえず、お前持っとけ。」
「うん。」
オレンジ色で、ストーンマンが持っていたから“地の想い”と命名することにした。シミュウは先に手に入れた“森の想い”と一緒に同じ所へしまう。
「これがエンジンでしょうか?思ったより小さいですわね。」
そんなやり取りをしている間にリアがもう一つの宝箱の中に入っていたものを取り出していた。
「よし、目的のモンは手に入った。さくさく戻るぞ。」
「お兄様・・・これって冷静に考えると少し酷いような・・・。」
聞こえない、聞こえない。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

山全体が揺れて、空間が大きく裂けた。冷え切った頂上の空気が瘴気で揺らぎ、その空間の裂け目へと寒気を送り込むようにして周りのものが徐々に吸い込まれていく。
「もしかしたら・・・帰ってこれないかもしれない・・・。」
少しずつ吸い込まれながらリッシアが呟く。
「でも・・・構わない!もうこの世界に未練なんてない・・・!わたしは・・・わたしはライさんの仲間だから!」
リッシアが大きく一歩を踏み出した。
すると、裂け目に一層近づいた影響かその小さな体があっという間に裂け目に飲み込まれて、リッシアは身体がワースやレイミスを使ったときのように光の粒子になるのを感じた。
そして、次に気がついたときには荒野に足をつけて立っていた。
「ここが・・・魔界・・・ね・・・。」
見渡す限り混濁した海、汚れきった荒野、不気味に濁った空。
「空が・・・泣いている・・・。」

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

「・・・リッシア?!」
ゾンビのところに戻ってみると、なんとそこにはリッシアがいた。
「やっぱお前さんの仲間かい。いきなり現れたもんだからびっくりしたわ。それにしても・・・。」
ゾンビの視線がリアとシミュウを突き刺す。
「いいなぁ・・・。お前、ハーレム状態じゃん。」
そういわれれば確かに・・・むやみやたらと女ばっかりだなぁ・・・。って、そんなことよりも。
「お前・・・来たのか。」
「うん・・・。わたし、ライさんの仲間だし・・・。」
「そうか。・・・お前がいると心強いぜ。また、頼むな。」
「えぇ、こちらこそ!」
「また一緒だねー!」
「よかったですわ。これで全員揃いましたわね!」
「あんさ。盛り上がってるとこわりぃけど。」
リッシアとの再開を喜ぶ俺たちの間にゾンビが割り込む。
「エンジン・・・取り帰してきてくれたん?」
ををを、大事なことを忘れるトコだった。
「おう。これ・・・だよな?」
「おぉそれそれ。よっしゃ、後は俺に任せな。すぐに取り付けてやっからよ。」
そういってゾンビは俺からエンジンをひったくると、飛行船の中に入っていった。そして、すぐに出てくると。
「すぐにとは言ったけど・・・半日くらいはかかるわ。ここでゆっくりしてってくれな。」
なんだいそりゃぁ。
「お兄様ー!」
「ぅわっ?!」
後ろから突然叫ばれてびびった。なんだなんだ。モンスターの襲撃か?
「ホラホラこれ見て!」
そういってシミュウが差し出したのは、淡い緑色の宝石のようなものだった。
「ん?これって・・・。」
「リッシアちゃんが持ってたんだよ。」
「今まで私たちが手に入れたものとそっくりではありませんか?」
「確かに・・・。リッシア、これ、どうしたん?」
「ダンからもらったの。」
・・・・・・。
「ゑ?」
ダン・・・って、あのダン・・・だよなぁ。
「あいつ・・・どこで手に入れたんだよこれ・・・。」
「謎ですわね・・・。」
ダンが持っていた、というのでとりあえずその淡い緑色の宝石だと思われるものを“風の想い”と名づけておくことにした。・・・ダンが持ってたものはあまり欲しくないけど。
飛行船のほうからはエンジンを取り付けていると想われる工具の音がする。だが時折ニワトリの鳴き声や激しい爆発音が聞こえてくるのは気のせいだろうか・・・。
とりあえず完成は明朝になりそうだ、ということらしいので俺たちはそこで一夜を過ごすことになった。

3.「本拠地潜入」

「空を飛ぶって気持ちいいねぇ〜。」
シミュウが両手を広げながら言う。それは確かにそうなのだが。
「落ちねぇだろうなこれ・・・。」
恐る恐る下を見ると、地面が速い速度で動いている。落ちたら死ぬなぁ・・・。
飛行船にエンジンを取り付けてもらった俺たちは早速飛行船に乗り魔王軍の城を目指して出発した。ゾンビのおやじは運転をしてくれるということでついてきた。
「・・・あれ・・・?」
「ん・・・?」
リアとリッシアがほぼ同時に声を上げた。
「ど・・・どうかしたのか?二人とも。」
できるだけふちには行かないようにして二人に後ろに立つ。実は高いところは苦手なのだ。
「お兄様、あれ・・・。」
「なんかありそうよ。」
そういって二人が指差すところを仕方なく見てみると・・・。
ナルホド、確かに少し南にずれたところにやたら光ってる場所がある。どことなく、その雰囲気はあの森の“森の想い”があったところと似ているような気がした。
「下りるのかい?」
心を呼んだかのようにバツグンのタイミングでゾンビが声をかける。まぁ・・・少しくらい遅れてもいいか。
「あぁ・・・下りてみてくれ。」
俺が言うと、ゾンビは進行方向をそちらにずらし、着陸態勢に入った。
ゆっくりと飛行船は高度を下げていき、その近くに見事に着陸した。
「ライ、見てあれ!」
シミュウが指差すその先には・・・光に包まれた白い宝石のようなものがあった。
「またこの類のものか・・・。5個目じゃねぇか?」
「・・・持ってくの?」
「んー・・・ここまで来たらもうなんでも来いだ。シミュウ、とったれ。」
「うん、わかった。」
シミュウがそっと光に近づいていく。宝石のようなものは、シミュウが近くに近づいたとき自然にその中からはがれるようにしてシミュウの手の中に納まった。
「シミュウ・・・大変ね。5つも持ってるんでしょ?」
「ん・・・うん・・・。ちょっと。」
「折角だからみんなで1個ずつ持っとくか。」
「それもそうですわね。何かご利益があるかもしれませんね。」
と、言うわけで俺たちは一旦飛行船に乗り込み、魔王軍のところまでにたどり着くまでそれの分配を進めた。
リアには“地の想い”、リッシアには“風の想い”、俺は“水の想い”、そしてシミュウは今名づけた“光の想い”と“森の想い”。
何かのお守りになるんならそれはそれでもうけもんだ。ちなみにシミュウはリオリエの分、とかいって二つ持っている。
そんな不思議なものの分配が終わった頃、丁度目的地に辿り着いた。
「おーい、着いたぞー。」
目立たないところに飛行船を下ろして、ゾンビは言った。
「よっしゃ。行くぞ。」
「うん!」
「えぇ。」
「はいですわ!」
三人を伴って、ひそかに潜入・・・しようとしたのだが。
入り口が一つしかないもんだから結局正面から入るハメに。当然、敵に見つかって追いかけられたり包囲されたりして散々だ。
1階は敵から逃げ回っているうちにいつのまにやら扉が開き、2階はモンスターが自分達の仕掛けたトラップに勝手にハマっていってくれたので助かった。
・・・運がいいんだな、俺。
そんなわけであっという間に最上階に。
しかし。
「この扉・・・開きそうにねぇなぁ・・・。」
恐らく魔王レムリアがいると思われる中央の扉がまったく動かない。
「こっちもですわお兄様!」
左からリアの声が。
「こっちは開いたよ〜。」
右からシミュウ。
「・・・ここに行くしかないかぁ。」
階の中心に一旦戻って、そこだけ開いた右側の扉を眺める。何かいそうな雰囲気がバリバリするんだけどなぁ・・・。
「行きましょう。」
「んだな・・・。」
仕方ないか。
階段を登っていくと、そこはなんかおかしな空間をバックにたたずんでる悪そうな人が。・・・人?人じゃぁ・・・ないわな。
「・・・いや、お前ら近づきすぎだって。」
「をを。」
怒られてしまった。と、いうわけで一歩分ほど後ろに下がる。
「あぁわりいね。」
「・・・早くあそこの扉開けて。」
「いや・・・まぁ・・・急ぎたい気持ちはわからんでも無いが。もうちっとは『間』を楽しもうぜ。」
「・・・ここまでくると流石にいうことが違うね。」
「俺はファイアーマン。あそこを開けて欲しければ俺を倒していくがいい!」
そういってファイアーマンと名乗ったそいつは剣を抜いた。
「それにしても・・・ナントカマン系ってダサく感じますわね。」
「・・・実は俺も気にしている・・・。」
気にしてたんだ。なんか意外。
「じゃ気を取り直して・・・フレイリム!」
ファイアーマンはいきなりシリアスな顔をすると、左手をこちらに向けてフレイリムを唱えた。
その手から大きめの火炎が吹き出して俺たちを襲う。
「ヒートバリア!」
火炎を見た瞬間リッシアが即座に防御魔法を使う。瞬時に赤い膜が俺たちを包み込み、そして火炎はそれに遮られて消えた。
「火の魔法を使ってくるんなら・・・水だよね!アクア!」
「ふん。ファイアム!」
ファイアーマンの火炎が、シミュウの放った水を蒸発させた。そしてそのまま炎が向かってきて切りかかろうとしていた俺に降りかかる。
「クエイク!」
リアの魔法がそこに入る。石つぶてが降り注ぎ、炎はその勢いを消されてその場から消えた。そのすぐ脇から飛び出てファイアーマンに短冊切り。
そしてリッシアが魔法を唱えると同時に俺は後ろへ跳ぶ。
「ホーリー!」
聖なる光の弾がファイアーマンの腕を焦がす。そしてその腕に俺は二段切りを放つ。攻撃を受けた直後の攻撃に、ファイアーマンが思わず後ろに跳び退る。そうやって後ろへ逃げたファイアーマンの額にスライサーの一撃が入る。
「・・・ちぃっ!」
「はぁっ!」
ファイアーマンがこちらに木を取られている隙に後ろへ回りこんだリアが三段切りを撃つ。そしてその勢いでファイアーマンは前につんのめる。
「今だ!」
そのファイアーマンめがけて俺は短冊切りをお見舞いする。そして、それとほぼ同時にシミュウのぶっとばす・すごい、リッシアのサンダー、リアの二段切りが入る。
「がはぁっ!」
それだけの攻撃を同時に受けて、ファイアーマンは膝をガクッと折った。
「ぐ・・・く、な・・・なるほど・・・。お前が・・・お前がいるから勝てないのか・・・!」
「な・・・?!」
「何をするつもりだ!」
「俺の後ろにある異空間・・・ただの効果じゃねぇんだぞ・・・。道連れだっ!」
それだけいうと、ファイアーマンは得体の知れない呪文を口にした。
「・・・っ!」
すると、リアの身体がファイアーマンと共に異空間に引きずりこまれていく。
「リア!」
俺が一歩踏み出たとき、既にリアはファイアーマンと共に異空間の中に消えていた・・・。
「・・・・・・。」
「リア・・・。」
「・・・ライ・・・?」
俺は踵を返して階段を下り始めた。
「行くぞ・・・。死ぬ覚悟は・・・できていたはずだ・・・。」
「そう・・・だよね・・・。」
悲しみを抑えて、俺は鍵の開いた左側の扉をくぐった。さっきの場所と同じ構造をしていて、階段を登りきるとファイアーマンと同じ姿の、だけど色の違うヤツが待ち構えていた。服の色は、黄色だ。派手。
「いや。だからお前ら近づきすぎだっつーの。」
「オゥ。」
一歩下がる俺たち。
「ったく。・・・それはともかくだ。よくぞここまでたどりつ・・・」
「だからはよあそこ開けろって。」
「・・・いやさ、急ぐ気持ちはわからんでもないけど・・・もちっと『間』を楽しめや。」
「・・・ここまでくると同じ文句ばっかりだな。やっぱ。」
「えぇっ?!ファイアーマンも同じこといったの?!くっそー・・・あいつには昔っからいいとこばっかとられてきたのに・・・ここでもか・・・。」
「そんなに?」
「俺が子供の頃一生懸命ためた金で買った駄菓子を半分以上あいつに食われたりな・・・。辛かった・・・。」
「ふーん・・・。」
「俺はサンダーマン。他の三人は倒せたみたいだが俺を倒せると思うなよ。」
「・・・・・・いきなり、話を元に戻すな。」
「いや、じゃなきゃ話進まないから。」
ごもっとも。
「行くぞ!スパークム!」
「させないわ!マイア!」
リッシアの魔法と共に白い膜が俺たちを包んだ。サンダーマンの放った電撃はそれに遮られて消えた。
「AHYFHYBVDH!」
「うごぁっ!」
スパークムを放つとともに切りかかってきたサンダーマンの腹辺りで、シミュウのぶっとばす・すごいが炸裂した。
「ホーリーム!」
のけぞるサンダーマンに追い討ちをかけるようにして大きな光弾がぶつかり、サンダーマンの服を焦がす。俺はその後ろにまわりこみ、二段切りでもって迎えた。
斬られた勢いで今度は前へのめりかけて、そこにさらにぶっとばす・すごいとホーリームがはいってサンダーマンはそんまま起き上がらなかった。
「よ・・・よーくわかった・・・。お・・・俺が負けた理由が・・・。」
「単に弱かっただけなんじゃ。」
剣を鞘に収めながら俺はサンダーマンの前に立つ。
「ライ・・・それは・・・あんまりじゃぁ・・・。」
「俺が・・・負けたのは・・・お前・・・も・・・いたからだ!」
「?!」
そしてサンダーマンは聞き覚えのある得体の知れない呪文を唱えた。
「リッシア!」
「きえろぉぉぉッ!」
サンダーマンの断末魔と共に、リッシアの身体が異空間の中に消えていった。

4.「魔王レムリア」

「遂に・・・俺たち二人だけになっちまったか・・・。」
「・・・・・・。」
振り返ると、目一杯に涙を溜めたシミュウがいた。
「・・・怖いか・・・?」
俺が聞くと、シミュウは思いっきり首を振ると、
「そ、そんなことないよっ!」
とだけ言った。
しかし、それが本心ではないであろうコトは流石に俺でもわかる。
「・・・そうか・・・。」
俺はそういって階段を折り始める。シミュウは慌ててその後ろをついてきた。
「怖くなったら・・・いつでも俺の陰に隠れろ。俺が護ってやるさ・・・。」
「ライ・・・。」
リアに続いてリッシアまでもが異空間に消えてしまい、俺たちは二人で魔王に挑むことになった。
ファイアーマンとサンダーマンがいなくなったおかげで、中央の扉が開いていた。その先にあった無闇に広い階段を登ると、いかにもといった雰囲気ではない部屋があった。
部屋に入って目に入ったのは、ディナーテーブルだった。魔王は、目に入らなかった。だって正面じゃなくて横に構えてるんだもんよ。
「・・・あんさ、普通こういう時って正面に構えるもんじゃないか?・・・って、女の人だったねー!」
「悪かったわね!」
それだけ言うと魔王は俺たちの入り口から見て正面の位置に回った。
「じゃ、気を取り直して・・・。貴方達が来ることはわかっていたわ。」
「・・・あんたが世界征服しようとしてる魔王レムリアだな。何故そんなことをしようとする?」
「決まってるじゃない。復讐よ!」
俺は思わずシミュウと顔をあわせた。
「『決まってる』・・・もんかなぁ・・・?」
「わたしは元々天界の住人。でも、ある日私が大切にしていたものを何者かに取られてしまったのだ!犯人はわかっている!けれど、天界はその事件をうやむやにしてしまったのよ!だから、わたしはそいつに復讐をする第一歩として人間界を征服することにしたの。あいつらへの見せしめにもなるしね・・・。」
「それだけでか・・・。愚かモンが!」
「なんとでも言いなさい!とにかく天界にいるあいつに復讐がしたい。」
「で?誰、そいつ。」
間。
俺・・・何か悪いこと・・・聞いたな。だけど気にしない。
「普通・・・聞く?」
「いや。なんとなく。」
「まぁいいわ・・・。意味無いだろうけど、教えてあげる。」
「へーへーそりゃどーも。」
「シレイムよ・・・。シレイム・レムリルスト。」
「・・・誰やねん。」
「・・・そりゃぁね・・・。」
「なんか・・・」
突然今まで黙ってたシミュウが口を挟んだ。
「僕に似てるね。その人の名前。」
「そういえば・・・あんたあいつに似すぎ!」
「そ・・・そんなに似てるの?僕。」
「瓜二つ!なんか許せん!地獄に送ってやるー!」
レムリアはそれだけ言うと突っ込んできた!
「させるかぁっ!」
俺は突っ込んでくるレムリアに十段切りハイパーをかました。連続で、しかも無防備な状態で切り刻まれてレムリアは吹っ飛んだ。
「いちちちちち・・・くそ・・・。」
「・・・弱。」
「うっさい!こうなったら最終手段よ!」
「む!なんだ!?」
レムリアはいきなり呪文の詠唱を始めた。それと同時に周りのマナがレムリアに集まっていく。俺たちは強力な魔法が来ることを予想して身構えた。
「三十六計逃げるが勝ち!」
「あ!逃げやがった!そんなんありか?!」
レムリアはものすごい勢いでこの部屋から駆け出していった。
「くそっ、追うぞ!」
「うん!」
魔王がたいしたことないらしいとわかったので少しシミュウは安心したらしい。元気な返事が返ってきた。
レムリアが逃走した奥の扉を開けて、更に更に進むと、不思議な空間が広がっていた。
足場はまるでガラスのような透明になっていて、下はどこまで続くかわからないほどの空間が続いている。そして、その足場はやけに広い。暴れまわっても落ちる心配はなさそうだ。
ずっとずぅーっと遠くにレムリアが見える。何やってるかはここからじゃよく見えない。でも、何かしてる。こっちに背中向けて・・・。
ガラス張りの足場の上を走りながらそんなことを考えていると、レムリアがこっちを向いた。そして何かをした。
ぶうううぅぅぅぅぅぅ・・・・・・んっ!
次の瞬間、暗黒の波動が俺たちを襲った。
「うわぁっ!」
暗黒属性の魔法に弱いシミュウが吹き飛ばされる。
「シミュウ!大丈夫か?」
「あ・・・頭が痛いよぉ・・・!」
「だ・・・」
ぶぅぅぅぅぅっ!
更に追い討ちをかけるようにして俺の横をすり抜けて鎌のような闇の弾がシミュウを直撃した。
「うあぁぁぁぁぁっ!」
「シミュウ!」
闇の弾の直撃を食らって、さらにシミュウの身体が弾き飛ばされる。
「・・・おい!大丈夫か?!」
「・・・・・・・・・。」
「シミュウ・・・?!おい!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・じょ・・・冗談じゃねぇぞ・・・。ウソだろ・・・?!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・く・・・俺一人で潰すしかなさそうだな・・・。シミュウ・・・待ってろすぐに迎えに来るからな・・・。」
俺は剣を抜き放ち、全力で走った。何かを吹き飛ばすために。
「あなたには効かなかったのね・・・。折角ミドルマナポーション飲みまくってがんばったのに・・・。」
「・・・・・・。」
「まぁいいわ。効かなかったあなたは・・・こうするしかなさそうね。」
「?!」
「出でよ!魔神!」
レムリアはそう叫びながら両手を高く掲げた。すると、そこに魔法陣が出現した。レムリアの詠唱に伴って、そこから何かやばい物が少しずつ出てくる。魔神・・・まさにその名前がピッタシ来るようなヤツだ。
「させるか!」
俺は召喚が完全に終わる前にレムリアに斬りかかった。
「RVCCTY・・・っどわぁっ!」
詠唱が途切れて、魔法陣が消えた。そして、中途半端に召喚されていた魔神がそこに現れる。召喚が中途半端に終わったせいでメチャクチャ不恰好だ。見ててなんか面白い。
「くそっ・・・。やってくれるじゃない・・・。一度詠唱が途切れたらもう無理ね・・・。マナ回復させなくちゃ・・・。」
「それもさせるかぁっ!」
魔神をとりあえず置いといてレムリアに斬りつける。
「あぁっ!最後のラストマナポーション!」
「うし。これでもう召喚はできんな。あとは・・・。」
「あのさぁ、人を勝手に呼び出しといてこんな形で放り出すのはどうかと思うんだよね、俺。」
「おおぅ。なんかえらくフランクな魔神だな。」
「それはコイツが・・・。」
「一応さ、召喚されたらそれに従わなくちゃいけないんだけどさ。やる気出ないって。ほら、こんなカッコだし。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「ってワケだからさー、一応俺もとの世界に帰るにはやられるか使役した人の命令を完了させなくちゃいけないんだよ。やっつけてくれる?」
「おっけー。」
「えぇぇぇっ!!」
「あ、でも俺タフだからがんばってね。」
「痛くないの?」
「あぁ、うん。その辺気にしなくていいから。」
「・・・逃げるが勝ち・・・!」
「どうやって逃げるの?」
ここは下は無い。落ちたら天界人でも無傷じゃすまないだろうね。こっちは中途半端でフランキーな魔神さんが道ふさいでるし。マナ無いらしいから出れないし。
「う・・・。」
「えーっと・・・とりあえずこの人返さなきゃいけないから待ってて。」



「ふぅ。さてさて、どうしてやろうかね。」
「う・・・。」
俺は剣を握り締めながら一歩ずつレムリアに近づいていく。それに伴って一歩ずつレムリアが後ろにさがっていく。
「・・・あ・・・あれ?」
「お?」
「・・・・・・。」
後ろに下がりすぎて、足場が途切れてしまったらしい。
「・・・うひょぉぉぉぉぉ〜!!」
レムリアが落ちて数秒後、激しい爆音が下から聞こえてきた。どうやら上手く着地はできなかったようだ。
「・・・やれやれ、終わった・・・のかぁ?こんな終わり方ありかよ・・・。」
俺はそこで踵を返して空を仰いだ。魔界の混濁した空が余計に泣いているように見えた。
「結局・・・残ったのは俺一人ってワケか・・・。・・・シミュウのトコに戻るか・・・。」
俺は重い身体を引きずりながら、先ほどの場所までのろのろと歩いていった。前なんぞ見る気になれなくて、うつむいたままで。
「・・・あれ?」
シミュウの足が目に入ったので顔を上げたら、白いローブを着たシミュウが立っていた。何故か、背中から羽・・・。
「・・・し・・・シミュウ?」
俺が恐る恐る近づくと、シミュウはおずおずと喋り出した。
「ライ・・・僕、死んじゃってたんだよね・・・?」
「・・・あぁ・・・。」
「でも・・・目の前が真っ暗になったのと同時に光が見えたの・・・。その光は僕の中に入って・・・気付いたら、僕背中に羽が生えて・・・。・・・・・・ううん・・・。これが僕の本当の姿だったの。だから、あれは死んだんじゃないのかもしれない・・・。」
「・・・。」
「僕・・・さっき思い出したんだ・・・。僕の本当の名前は・・・シレイム・・・。天界のお姫様だったの・・・。」
「・・・るゑ?!」
「ある日・・・僕お皿に乗ってたあんぱんを食べちゃって、レムリアの怒りをかって天界から落とされちゃったの・・・。レムリアのだったなんて・・・僕知らなくて・・・。落ちる途中に・・・レムリアに意地悪な魔法をかけられて、記憶を失って・・・姿も変えられた・・・。まだ魔法が解けたばかりだから完全には戻ってないけど・・・。でも・・・悪いのは僕だから・・・後で謝っておくよ。多分彼女は・・・あれくらいじゃ死なないだろうから・・・。」
「・・・・・・食べ物の恨みは・・・心底恐ろしいな・・・。」
「ライ・・・。」
「・・・ん?」
「僕は・・・ライが大好きだよ・・・。でも・・・ライは・・・僕のコト・・・嫌い・・・だよね・・・。僕は人間じゃないんだもん・・・。強引にライについてきちゃったし!非常識だし!それに・・・僕・・・全然魅力ないし・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。・・・い・・・いただこう・・・。」
「!?」
「その・・・なんだ・・・。あれだあれ。報酬・・・そう報酬。報酬として・・・お前をいただく・・・。」
「ライ〜〜〜〜〜!」
猛スピードで抱きつかれた。
「うぐっ・・・・・・うぅぅ・・・。」
「・・・なんか・・・照れくさい・・・。」

5.「エンディング」

「見て見て!僕、ホントは金髪なんだよ!だいぶ術の効果が薄れてきた証拠だよっ!」
そういってシミュウ・・・いや、シレイムは品評会に出たモデルのようにくるりと回る。それにあわせて金髪に戻った髪と純白の翼が揺れる。
「ね、ライ。お空のお散歩しようよ!魔界のお空は悲しんでるけど・・・気持ちいいよ!あの感覚は爽快だよ!そのうちこのお空も僕達に微笑んでくれるよ!僕が押さえててあげるから。ね?一緒に行こうよ!」
「いや・・・俺・・・高いトコ、苦手なんだけど・・・。」
「大丈夫だよ。だって、ここガラス張りなのにライ平気で立ってるでしょ。行こ行こ!」
シレイムはそういって有無を言わさず俺の身体を掴んで空中に浮かび上がった。
「あっ!!ちょっとまった!」
俺がそういったときは既に遅く、俺の身体はシレイムと一緒に空を舞っていた。
先ほどより少し濁りが薄くなった空が、微妙にオレンジ色に染まり始めている。そんな中を、シレイムは俺を掴んで飛んでいく。眼下にはみんなで通った魔の森や、ハウトが流れていく――――。
「俺・・・この数週間で二度と味わえないような冒険をしたんだよな・・・。もしシレイムに出会わなかったら・・・今頃・・・どうなってただろう・・・。・・・ありがとう・・・シレイム・・・。」

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

あれから、俺たちは無事人間界へ帰ってくることができた。
ガルドとリンクスも、リアとリッシアも俺達の後を追うようにして無事帰ってこれたのだった。
俺たちが集めた、森、地、水、風、そして光の想い・・・勝手に俺が名づけたんだけど。それらの「想い」の力のおかげだろう・・・。それにはみんなの希望が詰まっている気がする。 根拠ないけどね。なんとなく・・・だ。

リアの話ではリッシアは相当親の優しさを求めていたらしい。
ちょうどそこに俺達の両親が帰って来た。
リアの発案で、一日だけリッシアを俺達の家族の一員として迎え思いっきり親の感触を味わってもらった。
リッシア・・・あの顔は今まで見た事が無い。純粋無垢な・・・まるで子供のように、穏やかな顔だった・・・。
そして、シレイムは天界に帰るつもりが無いらしい・・・。

あれから数日・・・俺とシレイムは結婚した。
俺とシレイムがはじめてであったあの地・・・レグアに居を構えた。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

Last.「そして・・・」

「それではお兄様!行きましょう!」
リアがリッシアと並んで手を振りながら元気よく言う。
「言っておくが途中までだからな。」
「わかっていますわ!」
リアはそれだけ言うと、リッシアのほうを向き。
「リッシアさん!これからもよろしくお願いいたしますわ!」
「えぇ!がんばりましょうね!」
「ライ〜w」
シレイムが俺に抱きついてきたっ。
「や・・・やめぃ!二人が見てるだろ!」
「がんばってね!」
俺たちを見て・・・リッシアが背中を向けた。
「リッシアさん・・・ヤいていらして・・・。やっぱりお兄様のこと好きでいらしたのですね。」
何ッ?!そうだったのか!と、口には出さないでおく。ていうか出せる状況じゃないし・・・。
シレイム・・・そろそろ離してもらいたいんだけど・・・。
「ん・・・んん・・・。」
「うふふふ・・・。」
「わ・・・笑わないでよぉ。」
「大丈夫ですわ。リッシアさんにもきっとピッタリ合う人が見つかりますわ。」
「そういえば・・・リアさん。この前は・・・どうもありがとう・・・。」
「どういたしまして。」
ようやくシレイムから解放された俺は、シレイムのほうを向きながら二人の背中を押して新しい家を出た。
「んじゃシレイム、留守頼むな。」
「うん!」
「おし行くぞ!」

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

俺は港までリアとリッシアを送った。
リアと、リッシアはコンビを組んで冒険の旅に出た。新米フリーファイターとベテランプリースト・・・。
彼女達はいいコンビになりそうだ・・・。俺とシレイムみたいに・・・なんつって。

そして・・・俺はその後フリーファイターを引退した。

アレから3年経ち娘が生まれた。背中には、もちろん翼があった。
そう言えば・・・彼女達は今ごろ、どこの空の下だろう・・・。
俺とシレイムそして娘は三人幸せに暮らしている。
色々あったけどな・・・。異世界の連中と冒険したりとか・・・っと、これは話すと長くなるからやめとく。

あれから16年。
・・・娘が16歳になる。あのときのリアにそっくりだ。旅立ちたい・・・なんて言い出したりなんかしないだろうな・・・?

     「お父さ〜ん。冒険の旅・・・
     「びくぅぅぅぅっ?!」
      のお話聞かせてよぉ〜。お父さんの武勇伝を本にしたいの!」
     (ほっ・・・。・・・って、待てよ。下手すりゃ触発されて・・・なんてことはないだろうな・・・。
      ん?てか・・・本って・・・出版すんのかっ!!)
     「勘弁!」



Fin.


And 


To be continued
      For “Feiren World 2”