ここはどこぞの世界・・・。
名は・・・「フェイレン」とかいったかな?
私たちが住んでいる世界とは違い、
剣と魔法が三度の飯並に普通の世界・・・。
ある国では戦争で人々が苦しみ
ある国ではのんびり平和に暮らし
ある国では年中お祭り騒ぎ・・・。
ある冒険者は憧れの剣士を目指して旅をし
ある冒険者は仲間を求めて酒場に集い
ある冒険者は重要アイテムを壊してしまい
ある冒険者は報酬のことでもめ・・・。
これから展開される話はちょっと奇妙なお話・・・。
まぁ、他の冒険者から見ればどうだっていい話ですが・・・。
一人の男性剣士と一人の女性盗賊、そして見た目は小さな成人僧侶・・・。
そんな三人が織り成す珍道中・・・。
今回のお話はライが故郷に戻った時のお話。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

0.「ライ」

俺の名はライ・ベイティクス。
フリーファイター・・・。
というよりは完璧な賞金稼ぎだ。
故郷はずっと北のアイシクルと言う寒い所だ。
今俺は一応剣の腕を磨く旅をしている。
しかし・・・・・・。
まさか故郷に戻ってくることになるとは・・・。
ま、ここ3年戻ってなかったからちょうどいいか・・・。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

1.「アイシクルの人々」

「久しぶりだな・・・この地に足を踏み入れるのも。」
久々の、懐かしい寒風に耐えながら、俺は思わず言った。
そう、久しぶりなんだよ、故郷に戻るのは・・・。
「私は16年ぶりかしら。」
後ろからついてきたリッシアが口を挟んだ。
リッシアはそうだろーな。
こいつは、8歳の時に呪いをかけられてそこから身体が成長しなくなってしまったんだ。
・・・ま、この間その大元を潰したからもう大丈夫だろうが、そのときから故郷には来ていないようだ。
当然といえば当然。
俺とリッシアが久々のアイシクルに足を止めていると、
「わぁ〜・・・・寒いなぁ〜。」
すぐ後ろから声がした。
この寒さだというのにレオタード一丁のピンクの髪をした娘だ。
彼女の名前はシミュウ。
ひょんなことからパーティに強引に入った、少々常識がバグった自称、トレジャーハンター。
寒いんならもっと服着ろよ・・・。
「・・・喜んでんの?嫌がってんの?」
俺は振り向かずに言った。
「もちろん嬉しいんだよ。ここが、ライの故郷なんだね・・・!」
すごく嬉しそうにシミュウは笑う。
最近、このおかしなノリに慣れてきている自分が怖い。
何はともあれ、とりあえずは俺の家へ行こうか。
「俺の実家はこっからちょい北だ。すこーし歩くからな。」
二人の返事は聞かず、俺は歩き出した。
大きな雪原に足を踏み入れると、俺の踝の辺りまで雪が来た。
アイシクルではこれが当然で、おそらくレグアから出たことの無い人間には歩きづらいことこの上ないだろう。
俺は今までの人生の大半はここで過ごしたから、どうということもない。
最初はちょっと苦労したが、すぐに勘を取り戻した。
リッシアもほぼ同様。
シミュウは・・・。
「うわぁ!」
べしゃん!という効果音が聞こえてきそうな勢いで、シミュウがつんのめってコケた。
まぁ、下は雪だから怪我は無いだろうけどな。
「・・・だいじょーぶか?」
「だ、だいじょぶだよっ!」
「そか。・・・遅れるなよ。」
すぐに起き上がると、シミュウは走り出した。
雪に足を取られて走るっていうスピードじゃないけど・・・。
そんなこんなで雪の中を歩いて1時間ほど。
森の中に、いくつもの家が見えてきた。
モンスターには、幸い遭遇しなかった。
「もうすぐだ。へたばんじゃねーぞ。」
振り向かずに俺は言った。
しかし流石のシミュウもだいぶ疲れているようで、蚊のような小さな声が返ってきた。
リッシアは、終始無言だった。
アイシクルには、それからすぐに付いた。
歩くに支障が無い程度にまで雪かきがされていて、今までよりもだいぶ動きやすい。
「リア、元気にしてるかな。」
アイシクルの中でも特に大きな家を眺めながら、思わず呟いた。
「妹さんの名前?」
「そうだ。俺の大事な妹さ。」
「・・・。」
「先に酒場に寄らせてくれ。」
あきれたような顔のリッシアを尻目に、俺はそれだけ言うとさっさと酒場のほうへ歩き出した。
3年もいなかったのに、この村の地理は驚くほど覚えていた。
キィっと音が響いて扉が開いた。
その途端、酒場にいた連中が一斉にこっちを見た。
そして、みんなの目が輝いた。
「おっ、ライ!彼女を連れて戻ってきたか!」
マスターが、真っ先に言った。
「いや・・・ただの相棒なんだけど・・・。」
「・・・。」
シミュウが、複雑な顔をした。
「ライー!久しぶりだな!」
金髪の男が右手を上げながら近づいてきた。
「久しぶりだな、ガルド。」
「で?そいつらは誰さ?」
ガルドがシミュウとリッシアを見ながら言った。
昔から付き合いがあるこいつだ。
こういう話にすぐに持っていく。
「まぁ・・・一応俺の相棒ってトコだ。」
「とかなんとか言って・・・ホントは女房と子供じゃねーの?」
「何てことを!」
俺はガルドを小突いた。
まぁこいつのこういう話には慣れちゃいるがこうでも言っておかないと後で何を言われるかわかったもんじゃない。
「わ〜い!」
「喜ぶなぁぁぁっ!」
「・・・てことは私がその子供ですかい。」
「冗談だって、冗談!お前がそんな軽く女の子をひっかけるやつじゃないことはわかってるよ。」
冗談なら言うな。
・・・久々だったから、結構効いた。
「そこのあんた。ライを振り向かせるのは至難の業だぞ。せいぜいがんばれ。」
「・・・・・・。」
ガルドに忠告されて、シミュウが黙った。
「ライ、お帰りなさい。」
ひとしきりガルドの話が終わったところで赤毛の女性が近づいてきた。
「久しぶりだなリンクス。剣の腕は上がったか?」
ガルドを押しながら、俺はリンクスに返した。
「あれからずっとがんばってたわよ!これからもがんばって、それであなたをいつか越えて見せるわ!」
ウィンクをしながら、リンクスがガッツポーズした。
もちろん、俺もこの3年でだいぶ剣の腕は上がっている。
「そう簡単には負けないぜ。がんばれよ。」
「えぇ!」
それからも、酒場にいたみんなが俺たちを歓迎してくれた。
といってもあまりいない。
「ところで、みんなはどうしたんだ?」
歓迎が終わったあと、マスターに問いかけてみた。
すると、
「みんななら狩りに出かけてるよ。」
とのこと。
「なるほどな。それでこんなに人がいないのか。」
「ライー、僕そろそろライの家に行きたいなぁ〜。」
シミュウが俺のジャケットを引っ張った。
もうちょっとここにいたかったがまぁいいか。
「そうだな。じゃな、みんな。」
俺はみんなに手を振りながら、酒場を出た。
家までまっすぐ、俺は昔いつも通った道を通って家まで歩いた。
家は、まったく変わっていなかった。
結構大きな扉や、雪が積もった広い屋根が懐かしい。
「ここがライの家なの?」
階段を上がりながら、シミュウが言う。
「そうだ。・・・てあれ?」
扉には、鍵がかかっていた。
「誰もいないな・・・。狩りに行ってるのか・・・ん?」
家のすぐ近くから、剣を振る音が聞こえてくる。
小さいが、かすかに聞こえる。
誰かが、俺の家の裏で、剣を振ってる・・・?
「・・・?」
首を傾げながら、俺はそこまで回った。
そこには、木に向かって剣を振っている娘がいた。
あまり太刀筋はよくなかったが、訓練はかなりしたんだろう。
その剣は、だいぶ使い込まれている。
「誰だ・・・?見たことの無いやつが家の裏で剣の稽古を・・・。」
俺は、その、髪の赤い軽装の娘の後ろを無ながら、首をひねった。
すると、その娘が、振り返った。
誰かがいることに気付いて振り返ったというよりは、今日はもうこれくらいにしてそろそろ休もう、といった感じだった。
その娘と、目が合った。
「・・・お兄様!お兄様ですね!」
そう言うと、その娘はまっすぐ俺のところに走りよると、俺の手を掴んだ。
その声は、聞き覚えがあった。
「こ・・・この声は・・・。」
「私です!リアです!」
時間が止まった。
俺は、しばらくリアと名乗った娘を凝視していた。
「ぬぐあぁぁぁぁ〜〜〜!!!」
俺は、思わず奇声を上げていた・・・。
「おおおおおおおお、お前!グレてしまったのかぁっ?!おぉ、神よ!我が身果てても構いませんのでどうか妹を正しき道へ戻してやってくださいー!」
「お兄様!私は正しい道にいます!詳しいことは中で話しますから!」
そこから、俺の記憶は曖昧だ。
うわごとのように、ずっと同じことを呟いていた。
「あの・・・病弱だけどしとやかでその上頭がいい上品なリアが・・・俺のいなかった3年の間にどうして・・・・。」
と。
(相当ショック大きいみたい・・・。)
シミュウが、心配そうな目でこっちを見ている・・・。
「実は・・・お兄様が出て行かれてから私、いつまでも皆さんに迷惑をかけるわけにはいかないと思いまして・・・これも単に私に体力が無い所為だと思って、お兄様が置いていかれた剣で毎日素振りをしていました。」
俺の置いていった剣・・・?
あ。
俺が昔親父について狩りにいった時に使ってたダガーよりちょっと大きい程度のあれか・・・!
「そうしたら、いつの間にか病気も治り剣術も身についてしまいました。途中で止めるのは納得がいきませんでしたので長かった髪も切り、こうして剣術に励むようになりました次第ですわ。今はお兄様のようにかっこいいフリーファイターを目指していますわ!」
「・・・・・・。」
俺は、もう言葉が出てこなかった。
「ライさん・・・聞いてた?」
隣から、リッシアが俺を小突いた。
俺は、無言という肯定を返した。
というか、このあたりからもう何も聞こえなかったような気がする。
「そういえば、そちらのお二方はどなたですの?」
「僕はシミュウだよ。一応、ライのパーティの仲間。」
「わたしはリッシア。同じくライさんの仲間よ。」
「そうでしたか。みなさん、折角ですので今夜はうちにお泊りになってください。」

「頭・・・冷やしてこようかな・・・。」
俺は、ベッドの中でうつぶせになりながら呟いた。
正直、まだ信じられない。
あのリアが・・・おとなしくて上品だったリアが・・・。
俺は、ベッドから出ると、階段を下りて外へ出ようとした。
階段で、リアとすれ違った。
「あら?お兄様、どこへ行かれますの?折角お兄様とお話がしたかったのに・・・。」
「頭冷やしてくる。・・ってかお前。そこ格好で寒くないんか?」
俺はだいぶ遅いスピードで階段を下りながら、リアを見た。
「大丈夫ですわ。カイロリングしていますから。」
「・・・なんだそれ?お前が作ったの?」
「えぇ、私が作りました。これを身につけていると体が芯から温かくなりますのよ。この近隣の国には既に特許申請済みですわ。近日中にこのあたりのお店にも出回るでしょう。」
「お前のそういうところは変わってないな・・・お前のおかげでこの家は狩りにいけない食糧難の時もこの村全体を養えたもんな・・・。」
ふーんという相槌を同時に返して、
「それを生かして内職すればいいのに・・・もしくはお前魔力も相当あるんだから魔法研究所とかに勤めるとか・・・。」
ついでに俺個人の要望を口にした。
「それはダメですわ。私、冒険者になりたいのですもの!」
即座にきっぱりと返事が返ってきた。
「そりゃな・・・小さい頃から病弱で外でなかなか遊べなかったから外へ出たい気持ちはわかるけど・・・。」
はぁ、とため息をついて、俺は外へ出た。
リアは外にまではついてこなかった。
「あー・・・やっぱりショックだ・・・はぁ・・・。」
俺はそこに座り込んだ。
屋根の庇が雪を遮断して、そこには積もっていなかったが寒気がそこに染み込んでいて冷たかった。
と、俺の目に人影が映った。
明るい所から急に薄暗い所へ来た所為でそいつらの姿はよく見えなかった。
が、そいつらはいきなり俺を引っつかむと、そのまま村の外まで走り出した。
「でひょあぁぁぁぁ〜〜〜!」

2.「リア」

外から、お兄様の悲鳴が聞こえてきた。
「なっ!なんですの?!」
私はその声を聞いてすぐに家の外に飛び出しましたの。
でも、そこにはお兄様はおろかお兄様に何かをしたであろう人たちの姿も何も見えませんでした。
夕方から夜になろうとしている、薄暗い景色があるだけで。
「あら?薪に紙が・・・。」
玄関の前に並べられたたくさんの薪の中に、紙切れがひとつ、はさまっているのを私は見つけました。
嫌な予感がしたので、私はそれを拾い上げるとゆっくりと読みました。
「ライはさらった。返してほしければここから東にある湖のほとりにある山へ一人で来い・・・。」
私は、全文を読んで、紙切れを両手で握りつぶしました。
「これは・・・これは私に対する挑戦状ですわ!お兄様!今私が助けに参りますわ!」
私はその紙切れを無意識のうちに握り締めたまま、村から走り出ました。
初めて見る村の外は、雪かきのされた村の中とは違ってとても歩きにくいところでした。
でも、私負けません。お兄様を助けるためでしたらなんでもいたしますわ!
カイロリングのおかげで、寒さや雪の冷たさはあまり苦になりませんでした。
困ったのは、たまに出てくるモンスターさんでした。
練習はしていましたが、実戦は初めてでしたので、とても戸惑いましたが、なんとかなるものですわね。
戦っているうちにだいぶコツ、とでも言うのでしょうか。
それがわかってきたので後のほうは特に困ったことはありませんでした。
アイススライムさんはあまり戦いは好きではいらっしゃらないようなので私の姿を見るとそそくさと立ち去ってしまいました。
その後姿は、なんだかかわいく見えてしまいちょっと笑ってしまいました。
お日様が完全に沈んでしまった頃、私はリムディル湖にたどり着きました。
そこは、山に囲まれた神秘的なところでした。
私、先ほども言いましたが村から出るのはなにぶん初めてですので、こういう景色を見ると感動してしまいますわ。
建物が近くに見えましたが、そこへ行く道は封鎖されていて通れそうではなかったです。
もっとも、そちらに行くことは無いのですけど。
道を封鎖していた石碑には、「二度とあの惨劇が起こらないようにこの遺跡への道を封ず」と記されていました。
「あの惨劇・・・16年前、私が生まれたときに起こった事件・・・。あのときの魔導士様は生きていらっしゃるでしょうか・・・。」
私は聞いた惨劇の話を思い出しながら呟きました。
湖には、犯人さんが用意したと思われる小舟がありました。
回り込むことはできそうになかったので、私は何か仕掛けられていないことを確認した後乗り込みました。
辺りは本当に静かで、舟をこぐ音だけがあたりに響きました。
私はできるだけの力を出して、舟を進めて湖の向こう岸へたどり着きました。
犯人達の言う、村がもうそこから見えました。
建物はボロボロでしたが・・・。
村へ入ると、その酷さがよくわかりました。
「ここは・・・亜獣人さんたちが住んでおられた村・・・ですわね・・・。16年前に遺跡に封印された魔法を巡って起こった大事件・・・その後の村は壊滅状態・・・寂しいお話ですわ・・・。」
その、村の中を歩いていた私の目にある石像が映りました。
それは、小さな女の子の石像でした。
その台座に、昔あったであろう文字の上に別の文字が刻まれていました。
「『村の救世主リッシア・フェルナンデス、暗黒魔導士デグレザレズと共に消ゆ。』・・・。」
台座には、風雨で見えづらくなっていましたがそう書かれてありました。
「こ、これはリッシアちゃんの像?この村のために戦ったのってリッシアちゃんでしたの・・・?でも・・・家にいるリッシアちゃんはこの象の姿のままだし・・・あれは16年前の話で、この象の日付もしっかり16年前・・・わからなくなってきましたわ・・・。」
私は像に向かって一礼して、村を探索いたしました。
失礼だとは思いましたが、お兄様の命がかかっています。申し訳ございません。
でも、どれだけ村を探し回ってもお兄様はおろか犯人さんの姿も見えなかったので私は山に続いているであろう洞窟へ入りました。
洞窟はまっすぐ山へ通じていました。
アイススライムさんがいましたが、攻撃はしてきませんでした。
私としても無駄に時間を使いたくなかったので素直に感謝いたしますわ。
山は、少し登り始めると雪が降り始めました。
夜になって、周りの気温も下がったようです。
でも、私にはカイロリングがありますので大丈夫ですわ!
山をそこから更に登ると、道の真ん中に誰かが立っていました。
第一印象は、悪そうな人、です。
「よく来たな。俺があの手紙を出した。ちゃんと一人で来るとはね。褒めてやるぜ。」
その人は、私を見るなりそう言いました。
「お兄様を返しなさい!」
私はその人に言いました。
こういう人は素直に返してくれないでしょうねと思いながら。
「・・・アレは嘘だ。」
「なにを言うのですか!お兄様は村にはいませんでしたわ!」
「え?マジで?」
「こうなったら、力づくでもお兄様を返していただきますわ!」
私はそこで剣を抜きました。
その人は最初から抜いていましたが・・・。
「ま、まぁいい。俺がお前を呼び出したのは、我々魔族にとってお前がジャマな存在だからだ。そろそろ魔族がこの世界を征服する。お前のその力は神聖な力。芽生えたばかりの今のうちに摘んでおこうと思ってな。」
よく見たら上半身はほとんど裸に近いその人は急にダークな顔になって言いました。
「私って、そんなに力があるんですか?」
「お前、病弱だろ。普通の人より肌が白い。病気がちだった証拠だ。それはすなわちお前の身体が大きな魔力についていけていなかった証拠だ。ま、他にもいろいろと理由はあるが・・・。それはともかく、俺はアイスマン!勝負!」
アイスマンと名乗ったその人は、それだけ言うと剣を振りかぶって襲い掛かった来ました。
私はそれを受けて、そのまま流しました。
そこで、アイスマンさんはブリザードを放ってきましたが私はカイロリングをつけているのでそんなに痛くも辛くもありませんでした。
私は受けるダメージを減らすために、ディーアを唱えました。すると、私の身体を光が包みました。
特に変化はありませんが、効果は確実にあるはずです。
アイスマンさんはもう一度切りかかってきました。
今度は右からです。
私はそれを、やはり受け流しました。
力ではやっぱり私は不利のようなので、全てを受けることは止めたほうがよさそうです。
「ちっ!邪魔が入ったか!」
アイスマンさんは急にしかめっ面をして言いました。
振り向くと、そこにはシミュウさんとリッシアちゃんが走ってくるのが見えました。
「応援に来たわよ!」
「僕も応援に来たよ!」
「リアさん!実戦だからね!気を緩めちゃダメよ!」
「はいっ!」
みなさんが来てくれたので、私は少し安心しました。でも、それではダメです。
リッシアちゃんに言われたとおり、気を緩めたらおしまいですから。
「あと、風邪薬5つとシェルター2つよ。持って来たから入れておいて。」
それだけ言うと、リッシアちゃんは真っ先にコールドバリアを唱えました。
走りながら詠唱していたようです。
私たちを青い膜が覆いました。カイロリングのおかげもあって、私は完全に冷気と遮断されました。
シミュウさんはバトルフリスビーをアイスマンさんに目掛けて投げつけました。
アイスマンさんはかわしましたが、そこにリッシアちゃんがホーリーをぶつけました。
更にバトルフリスビーが戻ってきて、アイスマンさんの後頭部にあたりシミュウさんのところに戻ってきました。
かわいそうとも思いましたが、私はそこを横から切りつけました。
アイスマンさんは、そのまま横に吹っ飛ばされて、崖から落ちて行ってしまいました。
見えなくなったのを確認して、私は思わずガッツポーズをしました。
「・・・やりましたわ!今の私の勇姿をお兄様に見せたいですわ!」
「ダメよ、ちゃんと脅迫文どおりに行動しなきゃ・・・。」
「・・・?私は脅迫文どおりのことをいたしましたが?この、脅迫文ですよね?一人で来い、ですよ?」
私はそういって薪にはさまっていた紙切れを差し出しました。
「あれ?私が玄関先で見たやつには三人で来い、って書かれていたわよ。」
私たちは素っ頓狂な顔を見合わせました。
「と、言うことは・・・アイスマンさんは本当にお兄様をさらってはいないのですね・・・。」
「えー?じゃ本当の犯人って誰なのー?」
シミュウさんがそこまで言った時でした。
急に、山頂から大きな音がしました。
そして、そちらのほうを向くと、ものすごい勢いで迫ってくる雪が見えました。
「ただでは返してくれないみたいね・・・。」
「わぁ〜!な、雪崩だよっ!」
雪崩?これが雪崩というものですか。
はじめて見ました。なんだか感動しますわ。
って、感動してる場合じゃないですわー!
雪が、私たちを押し流していきました。

3.「過去に生きる人々」

「落ち着きねえなーお前。もうちっと落ち着けや。」
ガルドが、あたふたと歩き回っている俺に言った。
「じっとなんてしてられっか!もしリアの身に何かあったらどーするつもりだっ!」
俺はガルドに向かって叫んだ。
本当に、リアの身に何かあったらって考えたらじっと何てしていられない。
「大丈夫よ、無事にここまでこれるって。」
リンクスが言った。
その目は、うろたえている俺を笑っているようなそうでないような。
「ライをさらったフリをして、あの子をおびき出して。うまくいけば、きっと泣きべそかいて、ライに『お兄様ぁ〜』ってすがり付いてくるよ。流石にここまでやっておけばフリーファイターになるの、諦めるでしょ。」
こともなげに言うが、俺にはそんなことを考えている余裕などなかった。
うろうろと、そのあたりを歩き回るだけ・・・。
そのとき。
ノックの音がした。
「来た来た。ほらライ、行ってあげなさいよ。」
「うおぉぉぉぉぉぉ!リアァァァァァァ〜〜〜!!」
俺は、ものすごい勢いで小屋を走り出た。
「いもぉおおおとよおぉぉぉぉ!」
って叫びながら。
しかし、小屋の外には、リアはいなかった。
そこにいたのは・・・
「ら・・・ライ〜〜〜!!」
叫びながら、シミュウが俺に抱き付いてきた。
「シミュウ?!い、一体何があったんだ?!・・・って、いうか他の二人は?!お前ボロボロじゃないか!・・・と、とりあえず、中入れ。」
俺はシミュウをゆっくり引いて小屋の中に入れて椅子に座らせた。
シミュウは暫く泣いていたが、少ししたら収まって、何が起こったのかを話し始めた。
「あ、あのね・・・僕とリッシアちゃんでこの山に来たんだけど、途中で、魔族と戦ってるリアちゃんと会って・・・」
「ま、魔族ゥゥゥゥっ?!」
「ら、ライ、最後まで聞きなさいって・・・。」
「それで・・・僕とリッシアちゃんでリアちゃんを助けて、なんとかやっつけたの。・・・ひっく。死に際に、雪崩の魔法を唱えて・・・その後は・・・。」
泣きながら、シミュウが続けた。
すると、みるみるうちにシミュウの目から涙がこぼれて机に落ち、染みを作った。
「ふえぇぇぇ〜〜〜〜ん!!!」
再び、シミュウが泣き出した。
「なんてこった・・・。畜生!」
俺は机を拳で叩いた。
そして、頭を抱えてうずくまった。
「ねぇ、ライ・・・無礼承知でひとつ聞いていいかしら?」
しばらくして完全に夜になった後、リンクスが口を開いた。
俺の返事を待たずに、リンクスは言った。
「どうしてそこまでリアちゃんを心配するの?」
俺は、リンクスの問いに顔を上げた。
「俺が10歳の時・・・親父と、狩りに出かけたときだ・・・。この山の頂上、この小屋の中で・・・。今、お前らがいるその辺りに、5歳くらいのリアがいた・・・。」
俺は、目を伏せながら淡々と言った。
「くらい、って・・・?」
「そうさ・・・。本当の妹じゃない・・・。」
俺はそれだけ言うと、立ち上がって歩いた。
暖炉の傍まで少しふらつきながら。
「体中傷だらけでよぉ・・・服もほとんど破れて、裸同然でその場所に・・・突っ立っていた・・・。」
壁にもたれかかって、俺は天井を仰いだ。
そのときのリアの姿を、思い出してしまった。
今でも、鮮明にそのときの景色が浮かんでくる。
「俺と親父を見た瞬間、泣きじゃくって逃げた。でもよ・・・。普通はよ・・・放っておけねぇじゃねえかよ・・・。リアがどうしてそうなっていたかはわからない・・・。もちろん俺たちは家に連れて帰った。大変だったさ・・・。暴れたからな・・・。また・・・虐待されるんじゃないか、ってな・・・。リアが10歳くらいのとき。この場所で虐待を受けていたことを話してくれたよ・・・。」
俺は目を閉じて目の上に腕を乗せた。
この空間を見ることを拒絶するように。
いや、事実俺は今ここを見たくなかった。
「それからリアの体の傷は綺麗さっぱりなくなった・・・。でも、リアはたびたび病気で苦しんだ・・・。俺はどうなってもいい。リアが元気になるまで看病してやるって、思った。元気になって、喜ぶ姿が見たかったんだ・・・。俺は・・・あいつに、『喜び』を味あわせてやりたかったんだ・・・!小さい頃に受けた大きな傷を、少しでも、埋めてあげるために・・・!」
俺のまぶたの下から、液体が溢れてきた。
そして、一筋の水脈となって、俺の頬を伝わろうとして、ジャケットに染み込んだ。
どれくらいぶりだろう。涙を流すのは・・・。
「3年前・・・リアは何時もより更に思い病気にかかった。俺は・・・その薬を探すためにフリーファイターになった・・・。剣の腕を磨きながら。・・・世界中を見て回った。でも、それでも薬は見つからなかった・・・。そして帰ってくると、リアはあの調子・・・。病気が治ってたのは嬉しかった。けど・・・・・・!」
それ以上、俺は言わなかった。
言いたく、なかった。
「俺・・・あの時、怖かった。もしも・・・あいつがフリーファイターになって、旅先で辛い死に方をしたら・・・。俺が・・・悪かったのかな・・・。俺が・・・フリーファイターになるから、こんな目にあってしまったんだろうか・・・。」
「ライ・・・行こう・・・。」
シミュウが、静かに言った。
「まだ死んだなんて、決まってないよ。誰も、決めてないよ・・・!」
「・・・。」
「行かないの・・・?だったら、僕だけで行っちゃうよ・・・?」
「・・・。」
「・・・もう!・・・あ、今のライには・・・ちょっと、無理かな・・・。じゃぁ僕、リアちゃんを連れ戻してくるから。ライは、ライなりの『喜び』を味あわせてあげてね!もちろん、リッシアちゃんにも!」
シミュウの言葉は、矢になって俺の胸を突き刺した。
そのとおりだ。
リアが死んだなんて、まだ決まってなんかいない、そんなこと、認めてたまるか・・・!
そして、シミュウは走って外に出て行った。
暫くして、リンクスが言った。
「あの子・・・だいじょうぶかしら・・・?」
「わからない・・・。」
ガルドが、静かに、ゆっくり返した。

「待っててね!リアちゃん!リッシアちゃん!ライがリアちゃんのために尽くすなら、僕はライのために尽くすよ!」
僕は、空に向かって言った。
そうだよ!僕は、ライのために生きるんだよ!
そして、僕はいつでも使えるようにバトルフリスビーを握った。
ライが僕に買ってくれた大切なもの・・・。
「待て。」
「わぁっ?!びっくりしたぁ!」
「俺も行く。お前一人じゃ、心細いからな。」
「ライ・・・。」
「ただし、お前が先頭を歩け。それから、これは『お前一人だけだと心配だから』ってことで、俺がお前の護衛に就く。なんでもいい。報酬をもらうからな。」
「うん、お願い!・・・すぐには払えないけどね。」
「いつでもいいさ・・・。さ、行こうか!」
僕、うれしかった。
たとえリアちゃんのためでも、ライが僕といっしょにいてくれるってことが。
ライはそれだけ言うとすぐに何も言わなくなっちゃったけど、傍にいてくれるだけで、僕はうれしいんだ・・・。
気を取り直して。
僕達は山を下り始めた。
少し下りると、さっきの雪崩の影響で雪が分厚く覆われていた。 まさか、この下に埋まってなんかいないよねぇ・・・?
時折出てくるモンスターは、ライが倒してくれた。
やっぱり、ライかっこいい!
僕なんかほとんど出番がなかったもん。
山を下ると、洞窟がある。
でも、そこまで行っても二人の姿は見えなかった。
「ここまで来たけど・・・誰もいなかった・・・。」
立ち止まった僕の隣に来ながら
「もしかしたら、村まで流されたのかもしれない。行ってみよう。」
ライが言った。
そして、僕らは洞窟に入った。

池の近く。
雪が雪崩で増えていて、池の中にまで張った氷を下敷きにして進出していた。
その傍らに、リッシアとリアがいた。
二人とも死んではいないようだった。
「ん・・・っ。」
リッシアが、ゆっくりと体を起こした。
そして、湖が真っ先に彼女の視界に入った。
「ここは・・・リムディル湖・・・?・・・いや違うわ・・・。」
呟くと、リッシアは立ち上がって辺りを見回した。
すぐに、倒れているリアが目に入る。
「リアさん!」
「ん・・・ん・・・。」
リッシアに身体をゆすられて、リアが目を覚ました。
「ここは・・・?」
「村の近くね。近くの池のほとり。」
リッシアがシェルターを取り出しながらリアに返した。
「・・・シミュウさんは?」
「彼女はあの雪崩からすぐにうまく逃れることができたみたい。多分、一人でライさんのところに行けたでしょう。もしかしたら救出できてるかもしれない。明日あたり村に行けば合流できるかもしれないわ。でも今日はここでシェルター張りましょう。」
既にシェルターをテキパキと組み立てながら、リッシアは言った。
その様を、リアはちょっと呆然として見ていた。

月が落ちた。
ディグルの近くの池のほとりに、シェルターが張られていた。
その中には、リッシアとリアが眠っていて、二人の間で小さく火が踊っていた。
組まれた木のはぜる音を耳にして、リアが目を覚ました。
「・・・あら、火を消すのを忘れていましたわ。・・・でももうすぐ消えそうですわね・・・。」
火に近づいて、リアが小さく呟いた。
しばらく火を見つめていた。
「ん・・・んん・・・。」
急に、リッシアの口から声が洩れた。
それは母親にすがる、子供のそれとまったく同じだった。
「マ・・・ママぁ・・・。」
「・・・リッシアちゃん?」
「合いたかった・・・の・・・わたし・・・うれしい・・・。ねぇ・・・思いっきり・・・甘えていい・・・?わぁい・・・ママ、だぁいすき・・・。」
「リッシアちゃん・・・どうして冒険者になったのかわからないけど・・・なんか・・・普段は厳しそうな雰囲気なのに・・・。本当は思いっきり甘えたいのね・・・。かわいそうに・・・。」
リアが呟いて、火が、また、そして今度は小さくはぜた。
「ママぁ・・・行かないで・・・ぇ・・・。ママぁ・・・!」
「リッシアちゃん・・・ホントはいくつなんだろう・・・。あの村にあった石像はリッシアちゃんそっくりだったし・・・本当にちっちゃい女の子なのか・・・それとも私より年上なのか・・・。」

そして日が上がった。
低い位置から光を送るそれは、湖などの水を照らし、暁を告げていた。
ディグルの近くの池のほとりに、シェルターが張られていた。
そのなかには、火の消えた焚き火と、リアがいた。
リッシアはシェルターを出て、ディグル村を望んでいた。
目は閉じられているが。
「みんな・・・生きてるのかな・・・。やっぱり・・・やっぱり、あいつに殺されてしまったのか・・・。ママも・・・。」
リッシアはゆっくり呟いた。
(・・・ん・・・。)
太陽の光を浴びて、リアが目を覚ました。
水面で輝く光がその目を射した。
リッシアは、リアが目を覚ましたことに気づいてはいないようだった。
「あれから・・・16年、か・・・。ふぅ・・・。・・・・・・・。ママ・・・。あの時、私がもう少ししっかりしていれば・・・。ごめんなさい・・・。」
「リッシアちゃん・・・。」
リッシアの呟きを聞いて、リアは思わず声を上げた。
「あわわ?!どわぁっ?!」
リッシアがかつてないほど慌てて飛び上がった。
「あなた、お母様を亡くされておられるのですか?」
いったん飛び上がったあと、リッシアはすぐに落ち着きを取り戻した。
「・・・うん。まぁね・・・。わたしのせいなの・・・。あなたも多分あの村をとおったと思うけど、あそこは私の故郷だったの。あの村にあった像。あれはわたしよ。私は今、24歳。16年前の封印された魔法を巡る事件。わたしは昔、あなたくらいすごい魔力があってね、その魔法を守るガーディアンだったの。だけど私は油断してたのか、ある日その魔法を狙っているヤツに呪いをかけられてこの8歳の体から成長しなくなったの・・・。魔法も奪われて、あの村は滅ぼされた。みんなは逃げ切れたのかわからない。」
リッシアは一気に喋りきった。
ふぅ、と呼吸の音が小さく聞こえた。
「まぁ・・・そのような辛い目に・・・。そういえば・・・あなた・・・お母様に全然甘えることができなかったのですね・・・。私、あなたの寝言を聞いてしまったの。聞いてしまったごめんなさい。すごく『ママ』って呼んでたわ・・・。」
「う・・・恥ずかしい・・・。」
リッシアがうつむいて、
「そうですわ!いい事考えましたわ!お兄様が見つかったら、教えますわ!それまで楽しみに待っていてくださいね!」
リアがそのあとに少し嬉しそうに言った。
「今のあなたは一人じゃない!わたしたちもいますわ!さ!完全に朝になりましたら村に行ってみましょう!」
その様子を、リッシアはずっと見ていた。
(何か考えてる時のリアさんってすごく嬉しそう・・・。わたしも普通に暮らしていたらこうなれたのかもしれない・・・。)
そう、思いながら。

4.「密航のダン」

死神のごとき姿をしたモンスター。
多分、魔族だろう。
村に入るなり、いきなりそいつが俺たちを襲ってきた。
「なんなのぉっ?!てごわいよ!」
「合流できるかと思ったんだが・・・できない上に足止めか・・・!気を緩めるなよ!」
俺は相手をにらみながら、言った。
すると、そいつはダークを唱えてきて、その暗黒の弾は、まっすぐシミュウに飛んでいき、そしてぶつかった。
「わぁっ!」
「今のは弱い暗黒魔法だ!こらえろ!」
「う・・・うんっ!」
俺は相手を袈裟に切りつけた。
しかし、あまり手ごたえはない。
(シミュウはやけに暗黒魔法に弱いな・・・どうしてだ・・・?)
返す刀で俺はそのまま逆袈裟に斬った。
そして、相手の攻撃が届かない所まで一旦下がった。
「さっさと倒してリアたちと合流しようぜ!」
返事の代わりに、シミュウは例の謎の爆発魔法を唱えた。
それは、見事に敵に直撃して、俺はそれに続いて二段切りを放った。
その直後。
「ライ!リアちゃんとリッシアちゃんが来たよ!」
シミュウが嬉しそうな声を上げた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!リアアァァァァァァッ!!!」
俺はリアに向かって叫んだ。
そのまま近づくと、
「お兄様!気を緩めないでください!!」
と、一蹴された。
「あ・・・あぁ・・・。」
「ライさんが怒られてる・・・。」
俺は後ろ頭を掻いて、剣を構えなおした。
俺がまさに飛びかかろうとしたとき、そいつはジェイドムを唱えた。
おおきな闇の波動が俺たちを襲った。
俺はまともに食らったが、あまりダメージはなかった。
俺はどうも暗黒魔法には耐性があるようだ。
しかし、シミュウ、リア、リッシアの3人は、それを食らって一撃でノびてしまった。
んなバカな!
他の二人もシミュウ並みに暗黒魔法に弱いなんて、そんなことがあるのか?!
「くそぉっ・・・こいつには勝てねぇか・・・っ!」
「ホーリーリエンス!!」
俺のすぐ脇から、巨大な光の球が飛び出した。
それは、まっすぐ線分を描いて敵を貫いた。
骨しかない顔は、完全に砕け散り水の中にぼとぼとと落ちた。
残った鎌とローブが、初めからなかったように消えた。
「リッシア?」
俺は振り向いて、言った。
しかし、リッシアは倒れていたし、他の二人も同様。
「一体何が・・・・・・むっ?!」
途中でヘンな気配を感じて、俺はもう一回振り返った。
「この気配はっ!」
「ぶびばごぶべばばばぁ・・・っ!」
池の中から、トンガリ帽子の青い髪の男がゆっくりと水を割って現れた。
「ま・・・まさか!今のはお前かっ?!」
俺は、その姿、ダンを見て、思わず叫んだ。
「ちがわい!俺は今着いたんだ!それに、俺の魔法はもっとショボい!」
ダンは水の中から上がると、すぐさま叫び返してきた。
「ここであったが、百年目ェェェェッ!密航してはるばるやってきたかいがあった!今こそお前に復讐だぁぁぁぁぁっ!」
「今それどころじゃねぇよ!」
「ええぃ問答無用!」
ダンは俺を無視してすぐさまエアロを唱えた。
風の刃が、俺を襲った。
間一髪のところでよけると、俺は仕方なく切りかかった。
「でも・・・寒そうだな・・・。」
と呟きながら。
「今日もこらえてるな・・・。」
言いながら、俺は二段斬りを放った。
それは、ダンの持っていた杖を三つにした。
「ぬぅあぁぁぁぁ!?」
そこへ、バトルフリスビーが見事にダンのデコに直撃した。
「あ、大丈夫か!」
「ちょっとびっくりしたけど、もう大丈夫!」
「左に同じくですわ!」
「なかなか強かったけど、あの程度じゃ死なないわよ。」
見ると、リッシアは既に詠唱体制に入っていた。
「に、人数が増えたところで俺は負けん!ここに来るまでに聖魔法やらなにやらいろいろ勉強したからなっ!ちゃんと魔力も回復させてきたぞ!」
今回はいつにも増して強気だと思ったら。
「とりあえずそこまでは用意したんだ。」
ダンを無視して、リッシアがホーリーを唱えた。
ダンはそれを見て、セイントムを唱えた。
「おぉっ?!なかなかやるじゃん!」
聖なる矢がみんなを刺した。
だけど、闇魔法に極端に弱かったシミュウやリアには、まったく効かず、リッシアや俺にもあまり効かなかった。
いや、まあ俺ら人間だし。
「ふはははっ!どうだ!俺の魔法は!」
高笑いしたダンの鼻っ柱に、シミュウのバトルフリスビーが入った。
「ふがっ!」
ダンが、奇妙な声を出して後ろに倒れた。
そして、盛大な水しぶきが上がった。
「ぬおぉぉぉぉ!つめてぇぇぇっ!!」
「私のお兄様に復讐なんて、この私が許しません!」
「・・・お前も可愛いな!とりあえず覚えてろっ!」
鼻血をそのままに、ダンは走り去って行った。
そのあとに、点々と血の跡があった。
・・・鼻血だけど。
「・・・何ですの?」
リアが、呆然とした顔で言った。
「まぁ、あまり気にするな。・・・それより、さっきの光は一体・・・。」
「あぁ・・・、アレはわたしがシミュウさんとリアさんの魔力を拝借してホーリーを増幅させて・・・ホーリーリエンスにしてぶつけたの。」
「・・・そりゃスゲェ。」
魔法のことはよくわからない。
人から魔力を借りれるものなのか?
「お兄様!無事でよかったですわ!!」
いきなりリアが、言った。
「あ・・・あぁ。心配かけてすまねぇ。」
「ライもすっごく心配してたくせに♪」
「・・・?」
「実はね・・・。」
シミュウが、山小屋でのリンクスとガルドのたくらみを包み隠さず言った。
俺は止めない。
あいつら、少しは反省してもらわないと。
「えぇぇっ?!リンクスさんとガルドさんの私を冒険者にさせない決心をさせるためのいたずらですって?!」
「こっちは雪崩にまで巻き込まれたのよ!!」
リッシアが続けて言う。
「そりゃぁ・・・怒るわな。いくらリアのためとはいえ、無関係者を二人巻き込んでるからな。」
流石のリアも、これには頭に来たらしい。
「よっしゃ。全員揃ったことだし。あいつら、ちょっと懲らしめてやるかぁ。」
「さ〜んせ〜!」
シミュウが元気よく跳ねた。

そして、俺たちは山の頂上に着いた。
そこには、何もなかった。
いや、粉々の瓦礫がそこにはある。
「なっ?!小屋が吹き飛んでる?!」
「リンクスさんとガルドさんがいませんわ!」
「・・・。」
リッシアが、無言で足元に合った紙片を拾った。
それは、飛ばないように石で固定してあった。
「あ・・・リッシアちゃんそれ・・・。」
「えぇ。手紙よ。」
リッシアはそれをリアに手渡した。
紙いっぱいに字が書かれているそれを受け取ってリアが言った。
「・・・読みますわ。」
俺たちは無言で頷いた。
一呼吸あと、リアはそれを読み出した。
「『突然モンスターたちがこの小屋に入ってきた。私たちは応戦したが、全然敵わなかった。私たちはそのまま魔界へ連れて行かれそうだ・・・。魔族の話では、もう少しでこの世界を征服し出すらしい。今、この世界にいるモンスターに、凶暴化する術をかけるらしい。みんな、逃げて。』・・・。」
「世界征服・・・。」
リッシアが静かに言った。
「・・・このまま放って置いては世界がモンスターに征服されてしまいますわ!」
それだけ聞いて、俺は嫌な予感を感じた。
「まさか、リア!!」
「もちろんですわ!誰かが潰さないとダメですわ!それに、リンクスさんとガルドさんを助けなければいけませんわ!」
リアは、そういって、紙を握りつぶした。
「無理よ。」
さらっと、リッシアが言ってのけた。
「今の私たちじゃ、敵いっこないって。」
「で、ではどうすれば!」
その直後。
空間が裂けた。
そして、山が揺れた。
それは、ものすごい勢いで俺の身体を吸い込み始めた。
空間の穴の向こうから、ものすごい邪気を感じる。
恐らく、入ったらそこは魔界だろう。
「・・・吸い込まれる。みんな、離れろ!」
それだけ言うと、俺の身体はそのまま空間の裂け目へ吸い込まれた。
「ライー!」
「お兄様!」
シミュウと、リアの声が聞こえてきた。
そして、すぐに何も聞こえなくなった。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

四人は、ひょんなことから大変なことを知ってしまうのでした。
そして、ライは突如山の頂上に現れた空間へと吸い込まれてしまいました。
シミュウ、リアもリッシアの制止を振り切り、ライの後を追い空間へ行きました。
そして、リッシアは・・・一人アイシクルへ戻るのでした。



第4話へ続く。