ここはどこぞの世界・・・。
名は・・・「フェイレン」とかいったかな?
わたし達が住んでいる世界とは違い、
剣と魔法が三度の飯並みに普通の世界・・・。
ある国では戦争で人々が苦しみ
ある国ではのんびり平和に暮らし
ある国では年中お祭り騒ぎ・・・。
ある冒険者は魔法を求めひた走り
ある冒険者は己を追及するために歩み
ある冒険者はクエスト意味がわからず首を傾げ
ある冒険者はマッピング失敗し迷い・・・。
これから展開される話はちょっと奇妙なお話・・・。
まぁ他の冒険者から見ればどうだっていい話ですが・・・。
一人の男性剣士と一人の女性盗賊・・・。
そんな二人が織り成す珍道中・・・。
今回のお話はライが腕試しにバトルコンペに参加した時のお話。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

0.「ライ」

俺の名はライ・ベイティクス。
フリーファイター・・・。
というよりは完璧な賞金稼ぎだ。
故郷はずっと北のアイシクルと言う寒い所だ。
今俺は一応剣の腕を磨く旅をしている。
しかし・・・。
まさかヘンなトレジャーハンターと一緒になるとは・・・。
でも少し戦力にはなるので俺としては少し助かっていたりするんだが・・・。
でも彼女はたまに俺に対する見かたがおかしい。
まさか、惚れてんのか・・・?
いろんな意味で困った。
それはともかく、俺は今己の剣の腕を試すためにレグア城主催のバトルコンペに参加している。
今、準々決勝まで勝ち進んでいる。
次は、どんな相手だ・・・。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

1.「リッシア」

「がんばって〜〜〜〜〜!」
客席から、シミュウが笑いながら、そしてやや跳ねながら声援を送ってきた。
先ほど言った、「ヘンなトレジャーハンター」とはまさにこいつのことだ。
そう、本当に「ヘン」なんだよな。
「お〜〜〜う!まかせとけ〜〜〜!」
かるーく返事をしておいて、俺は相手が出てくるはずの向こう側の扉(もう開いてるんだけど)に向かい合った。
既に剣は抜いてあって、しっかり俺はそれを握っている。
<ライ、現在6人抜き!この勢いを止める者は果たしているのか!!次の相手はこいつだぁっ!!>
司会が、まだまだコンペはこれからだぜみたいな勢いでまくし立てた。
いよいよ、次の相手だ。
もちろん、俺が6人抜きをしているということは、すなわちその相手も6人抜きをしているということで、より一層がんばらなければならないことを意味している。
さあ、相手はどこのどいつだ!
ファンファーレにあわせて、扉から小さな人影が現れた。
「・・・・・・なっ!?」
会場が静まった。
そう、出てきたのはどうみても8歳から10歳くらいの小さな女の子だった。
正直俺は目を疑った。
こんな子供が6人もの猛者たちをばったばった倒している姿がどうしてもビジョンとして出てこない。
<次の相手はリッシア・フェルナンデスだ!!出身地不明の8歳のプリーストだ!>
・・・・・・。8歳のプリースト。
マジかよ・・・。
俺は子供を殺めたり傷つけたりするような趣味じゃないし、そんなことはあまりしたくない。
でもこれはバトルコンペであって、しかもこいつはいままで俺と同様6人の相手を倒してきたわけで・・・。
<両者定位置につきました・・・。>
混乱してきた・・・。
司会の声がなんだか遠く聞こえる・・・。
<それでは第6回戦!>
司会が更に続けた。
もういい、こうなったら仕方が無い。
あとは野となれ山とな・・・
「デスデスデス。」
っては?
直後、俺の体中を激しい魔力が駆け巡り、すさまじい量の魔力が暴発した。
「ふんぎゃぁぁぁ〜〜〜〜!!」
俺はその爆風に吹っ飛ばされて壁に激突。
頭とか、肩とかをかなり強い勢いでぶつけた。
「ごめんなさい。どうしてもお金が必要なの・・・。」
<でたぁ〜!即倒し魔法!デス3連発!!>
なんやかやと声が聞こえるが、俺の意識は既に遠い世界をさまよっていた・・・。

バトルコンペ出場者の控え室。
その1室のベッドにライが横になっていた。
意識は、無い。
横で、シミュウが半泣きの状態で看病している。
いや、看病というほど大げさなものではない。
「ライ・・・死なないでぇ・・・。」
シミュウが声をかけても、ライはただうめき声を上げるだけだ。
「こうなったら!僕が仇を討つよ!」
「そりは反則・・・。」
シミュウの仇を討つ、という言葉にライが反応を示した。
しかし、依然意識ははっきりとしていない。
「待っててね!」
シミュウはそういうと、部屋を飛び出して行った。
直前、ライは止めていたのだが、混濁した意識の中発した言葉だったため(またシミュウが半ば暴走モードに入っていたため)シミュウの耳には届かなかった。
ばたん、と勢いよく扉が開閉され、部屋の中が一気に静かになった。
ライの意識は、ブラックコーヒーにミルクを数滴垂らしこんだ直後の表面のように渦を巻いていた・・・。

一方その頃。
部屋を飛び出したシミュウは、いきなりドレスや王冠など、数々の装飾品を身につけた女性と盛大にぶつかった。
ぶつかった相手は、桃色の髪を持っていた。
「ごっ!ごめんなさい!」
「いえ・・・あなたこそ大丈夫?」
一目で姫だとわかるいでたちをしたその女性は、怒るそぶりを見せず、穏やかにシミュウに話しかけた。
・・・傍から見ると、それは双子のように見えないでもなかった。
レグアの姫は、シミュウの姿を少し眺めると、
「1週間姫になってもらえませんか?どう見ても、あなた私と瓜二つですし!どうしても・・・代わってほしいのです!」
いきなりズケリと言ってのけた。
いきなり言われても、という感じでシミュウはあんぐりと口をあけた。
「駄目でしょうか・・・?」
そういう姫から、シミュウは困っているという感情を見た。
「いいよ。代わってあげる!」
持ち前のノリの軽さであっさりとOKを出すシミュウ。
どことなく、妙な共通点があるようだった。
「よかったぁ・・・・。で、あなた戦えますよね?」
「え゛?」
「さっ!着替えましょう!」
戦えますよね。
姫の言葉がちょっと気になるなぁと呟きつつもそのままその人の後ろをついて彼女の部屋に向かうシミュウだった。

「なかなか帰ってこないな〜・・・。」
ここはバトルコンペ出場者の控え室のベッドの中。
俺はさっきのリッシアとか言うちっちゃいプリーストにデス3連発を見事に食らい、あえなく6回戦敗退。
さっきまでは常に飛びかけてた意識も、今はだいぶはっきりとしてきた。
そして、シミュウが俺の仇を討つとか言って飛び出していってから結構経つ、というわけだ。
そのとき、ノックの音がした。
それは壁をひとつ越えて、俺の鼓膜を刺激した。
「暗殺者じゃなきゃどーぞー。」
そう返した直後、ドアが開くわずかな音がして、足音が部屋の中に広がった。
足音は、部屋の入り口からわずかに来たところで止まった。
回数は、異常なまでに多かった。
「あの・・・。」
声のしたほうを見て、びっくりした。
そこにいたのは、紛れも無い、リッシア・フェルナンデスの姿だった。
「あなたがわたしの魔法受けて一番激しい吹っ飛び方をしたので・・・心配になって・・・。」
俺が目をむくと、リッシアはそう言った。
「げ・・・。俺が一番激しかったのか。」
確かに俺はそういう吹っ飛び方をしたかもしんないな・・・。
まだ、ぶつけた頭が痛い。
彼女は、それを聞いて俺の横になっているベッドまで来た。
「あの、これを飲めばすぐによくなるので・・・。」
そういって、リッシアは有無を言わさずそれを俺の口の中に放り込んだ。
「ちょいニガっ!」
それは、中途半端な苦さだった・・・。
でも気分は実際よくなった。うん。
「悪いな。こんなことしてもらって。」
「いいんです。わたしはどうしてもお金が欲しいだけなので、人をとことん潰すつもりはありません。」
「でもデス3連発は・・・。」
「わたし、心配性なんです。」
・・・・・。
「それでは、わたし、次の試合があるので・・・。」
「あ。あぁ・・・。無理すんなよ。」
「えぇ!それでは!」
そういうと、リッシアは部屋を出て行った。
もちろん、その足音の回数は多かった。
「・・・しかし・・・8歳にしては口調もしっかりしてるし、気遣いもいい・・・。なんか雰囲気が妙なんだよな・・・。・・・考えすぎだな。」
考えれば考えるほど、ぐるぐると妙な感じがしてくる。
俺は深い思考は苦手だ・・・。
「何か魔法に打ち勝つコツありそうだし。見に行ってみるか。」
結論は棚に上げて、俺は会場へ行くことにした。
シミュウは・・・まぁ、ほうっておいてもどうせまた後ですぐ来るだろ。

試合会場は、決勝戦ならではの盛り上がりを見せていた。
しかも、出場者の片方は8歳の子供だ。
そりゃぁ、盛り上がるわな。
リッシアの相手は、なんだか、やばそうな雰囲気の魔導士だった。
怪しい、の一言ですべて片付けることができそうな勢いだ。
「最後の相手がお前とはな・・・。」
「・・・!」
「お前からかかって来い。」
その魔導士は、既に全身から負の気が溢れている。
どんなヤツが相手だろうと、こいつにはそうは勝てないだろう・・・。
どうでる?リッシア・・・。
「くっ!ファイアリエンス!!」
巨大な炎が魔導士を襲った。
すげぇな。
ファイアリエンスといえば炎系の魔法では最強のハズだ。
熱を一箇所に集中させることでとんでもない威力を生み出すとかどうとかって・・・。
「・・・ふっ。お前の魔力はそこまで弱くなったのか。」
「なっ!」
・・・効いてねぇ。
なんだあの魔導士・・・。
「ふふふ。これでも食らっておねんねしてな。・・・バーストム!!」
次の瞬間すごい爆発がリッシアを襲った!
バーストム!
爆発系魔法の中位魔法のハズだ。
それであんな威力だと・・・?!っざけんじゃねぇぞ・・・!
「ちっ、死ななかったか・・・。そのままでも生命力はあるな・・・。」
「くっ・・・。」
どうやら意識はあるらしい。
あれだけの爆発を食らって・・・。
まぁ、亜獣人は普通の俺ら人間よりは生命力があると聞いた。
そのおかげだろうな・・・。
「リッシア・・・。ただじゃすまないな、あの威力・・・。」
魔法ができない俺としては、魔法がそこそこ使えるだけでも結構すごいと思うのにな・・・。
この試合はちょっとすごすぎてコツとかは掴めそうになかった。

選手控え室。
その部屋のひとつのそのまたひとつのベッドにリッシアは横になっていた。
意識ははっきりしている。
表情は、優れない。
「呪いをかけられて・・・何年になるかしら・・・。魔力もだんだん弱くなってきてる・・・。『ファイアリエンス』ももう使えなくなってしまった・・・。でも・・・・復讐するまでは・・・死ねない・・・!」
最後のほうは、聞き取れるような音量ではなかった。
もう少し寝てよ、というとリッシアはまぶたを閉じた。

暫くまどろんでいたリッシアは、誰かの気配がすぐ近くにあることに気が付いた。
「誰・・・?」
リッシアの問いに、すぐさま「俺だ。」と返ってきた。
「・・・あ!ライさん。」
「大丈夫か?リッシア。」
リッシアの近くにいたのは、ライだった。
正真正銘本物の。
「ちょっと心配になってな・・・。あの一撃はすさまじかったから・・・。」
正直ライにはバーストムが元来どれくらいの威力であるかはわからなかったが、実際の威力の程、それは直接見れば旅慣れてそこそこの修羅場を乗り切ってきたライには一目瞭然であった。
「お心遣いありがとうございます。」
あくまで丁寧に返すリッシア。
ライは、内心本当に8歳児なのかと首を傾げつつ、
「ところでよ。お前、金必要なんだろ?これ貰っとけ。」
そういってお金をリッシアの目の前に突きつけた。
「えっ?!そっ・・・そんな!2000ティンもいただけませんよ!」
その2000ティンは、ライの3位の賞金。
ライはそれを惜しみなくリッシアの金袋にねじ込んだ。
「俺は自分の腕試しで参加しただけだ。金なら仕事で貰うさ。」
「そ・・・そうですか・・・。」
「じゃぁな。俺は相棒を迎えに行く。」
それだけ言うと、ライはさっさと部屋から出て行ってしまった。
その足音は、リッシアのそれとは大体2分の1くらいの数だった。
「ライさん・・・。・・・ありがとう。」
それだけ呟くと、リッシアはもう一度まぶたを閉じた。

2.「リオリエ」

レグア城の正面玄関。
俺はそこでシミュウを待っていた。
あいつが俺の敵を討つとか言って出て行ったのがもう1時間かそこらは前だ。
「コンペが終わってるからここで待ってれば来ると思うんだけどなぁ・・・。」
毎回毎回心配かけさせやがって・・・ったく。
なかなかこない。
どこまで行ったんだ?
まさか、本当にリッシアに攻撃して無いだろーな。
・・・。やりかねんなー・・・。
「ごめんなさ〜い!」
ぼーっとしてると、いきなりシミュウが城の奥から現れた。
登場が唐突だったから、ちょっとびっくりしたけど、まぁいいや。
でも。
なんか、なにか、何かが違う。・・・気がする。
「ちょっとわたし急用ができちゃって。ごめんなさい。さ、行きましょ!」
「・・・・・・。」
今、決定打を食らった気がした。
「どうしたの?」
「ちょっと・・・。」
シミュウ・・・いや、シミュウのニセモノを引っ張って俺は一気にレグア城の外に出た。
そして開口一番。
「お前。偽者だろ。」
「そっそんな!わたし本物だよ!」
・・・。
「偽者って言ってるようなもんだ。わかるか?お前。」
「・・・?」
言ってやろうではないか。
「アイツの一人称は『僕』なんだよ。」
「・・・えっ・・・!」
「ついでに本物は結構泣き虫だ。で、本物はどこだ?」
さらわれた・・・とかそういうのではなさそうだが・・・。
「この城最上階のわたしの部屋。」
・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「わたし、この城の姫なんです。これが証拠です。この国にまつわるブローチです。ペンダントもありますけど。」
そういって、偽シミュウがブローチとペンダントを引っ張り出した。
俺は、まだあいた口がふさがらない。
「なにぃぃぃぃぃぃ!」
「わたし、リオリエといいます。」
リオリエ・・・確かレグアの姫さんの名前はそれだったはずだ・・・。
あっ、あいつ・・・ありえないくらい似てるじゃねーか!
「実は私、命を狙われているんです。多分。このペンダントを狙っているのでしょう。」
「だ〜〜〜〜っ!?」
俺は思わず1,2歩引いた。
つまり、あいつ、シミュウは現在命を狙われているということで・・・。
「どうすんだよ!一応俺の相棒だぞ!あいつあんまり戦闘力無いぞ!?」
その通り。
あいつはあまり頼りにはならない。
バトルフリスビーとか、そういった軽いヤツしか扱えないし、魔法もそうできるわけじゃないし。
「せめて護衛剣士を余分に雇えよ・・・。まぁいいや。シミュウ救出がてら俺が張り倒してやる。」
少し間。一呼吸つく。
「どうやって侵入するか・・・。城には気軽に出入りできないだろうし。近くの町で作戦練るか。」
そういって周りを見渡す。
町は、城の周辺には存在しなかった・・・。
「町までは少し歩きますよ。」
リオリエ、ナイスタイミング。
「しゃぁない。歩くか。」
なんちゅーか、とんでもないことに巻き込まれたような気がする。
シミュウは無事かねぇ・・・。

レグアの前の浜辺に沿って東へ数十分。
リオリエの言ったとおり、ある程度歩いたところにその町はあった。
町の名前はバル。
「まずは宿屋だな。同じ部屋でいいか?」
「えぇ、構いません。」
「んじゃ決まりだな。」
というわけで宿屋へ。
途中、町の娘さんから信じられないって感じの視線を向けられたのだがとりあえず無視。
多分、リオリエを見て驚いてんだろーな。
シミュウと並んだらもっと驚くかもしんねーけど。
「二人頼む。」
かちゃんと金をカウンターに置きながら言った。
「お部屋はあちらです。」
・・・・。
あちらですって、部屋、ひとつしか無いじゃん。
一応、宿屋の主人達に聞かれては困る話なので俺たちは夜が更けるのを待った。

その夜。
「で、正面以外に侵入経路があるのか?」
仮にも一国の城にそうも簡単に入れる道があるわけが無い。
多少の覚悟はしておくべきなんだろう。
「えっと、あります。この町に、城に直接通じている地下道があるのです。・・・旧城にも行けるんですけどね。この町に私の知り合いがいます。その方が、その地下道を管理しているんです。」
「それは心強い。うし、明日訪ねてみるか。」
なんか、結論がさっさと出てしまった気がするな。
まぁいいか。
明日はちょいハードなことになりそうだ。

3.「疾風のダン、性懲りもなく」

朝。
今日も天気がいい。
昨夜のとおり、早速リオリエの知り合いとやらを訪ねることにした。
リオリエがこっちです、と俺を引っ張る。
そこは、町の一番奥だった。
この町では一番大きな建物。
そこが、リオリエの知り合いとやらの生息地・・・いやもとい、家、らしい。
さすが姫というか、リオリエはお邪魔します、としっかりあいさつを忘れない。
俺にはできんな。
「?誰だあんた。」
ずかずかと上がりこんできた俺を見て爺様は真っ先にそういった。
失礼だなおい!
あ、俺も人のことは言えないか。
「本日はどのようなご用件で?姫様。」
俺は無視か!?
「実は地下道を使いたいのですが。」
「地下道ですか・・・。」
すっかり傍観役となってしまった俺は、様子をうかがうことしかできない。
が、地下道、という言葉を聴いた瞬間爺様の表情が固くなった。むぅ、って感じ。
「どうかなされたのですか?」
リオリエの問いに、爺様は仕方ない、という感じでゆっくりと口を開いた。
その語調は、重かった。
「モンスターが何故かたっぷりいましてな・・・。」
少し間をおいて、
「・・・姫様、危険ですぞ。」
それを聞いて、
「大丈夫です。私には今専属の護衛がいますので。」
実にあっけらかんと、そしてかつさらりとリオリエは言ってのけた。
すげぇ度胸・・・。
ま、これくらい度胸が無いと姫はやってけないんだろーね。
「ねっ。」
「あ、あぁ、俺が一応その護衛だ。」
いきなり振られて焦った。
突然話の真ん中に持っていかれてしまった。
「そうですか。・・・・・・大丈夫ですかな。」
なんだよ、その間は。
そりゃまぁ、俺ぁ一般人だしこの国じゃ名前も知られて無いフリーファイターだけどよ・・・。
これでもバトルコンペは3位なんだぞ?
「でも、何故地下道を?」
「実は私、命を狙われているのです。恐らく、このペンダントを狙っているのでしょう。それで、この方の相方様が私と瓜二つで魔力ありそうだったので、身代わりになってもらったのです。ですが命を狙っているものがその方以上に魔力があってこのままでは・・・。」
俺はまた蚊帳の外か・・・。
てか、シミュウ、実に巧くフォローされてるよ・・・。
「わかりました。隣の部屋に更に小さい部屋がございます。その中のタンスを動かしてください。」
「ありがとうございます、おじいさま。」
そういってリオリエが立ち上がったので、俺も立った。
いきましょう、と促されて俺はリオリエについて隣の部屋の中にある更に小さな部屋に入った。
その部屋には、確かにタンスがあった。
俺一人で動かせるかねー・・・。
「よ・・・っと。」
案外、軽かった。
タンスを動かしたら、その後ろにはぽっかりと穴が開いていた。
その先は下りの階段が続いている。

階段を下った地下道は、確かに爺様が言ったとおりモンスターがわんさかいた。
地下道に入ったとたん、表とは比べ物にならない数のモンスターの気配があちこちから迫ってくる。
地下道には、主にレッドスライムが群生していた。
それに混じって、グリーンコボルトの姿が見える。
他にモンスターの姿は見当たらなかった。
道のあちこちには岩とか石とかが無造作に転がり、何かの部品と思しきものもときたま見かけた。
少し歩くだけでレッドスライムに遭遇する。
何回も毒を食らい、それ以前に持っていた解毒剤はすぐに使い切ってしまった。
リオリエは、なかなかどうして戦闘の筋がよかった。
下手したら、シミュウより強いかもしれなかった。
シミュウの代わりに預かったと思われるバトルフリスビーの扱いも上手かった。
だけど、どんなに強くても毒にゃ勝てねぇ。
一旦戻るかなーって俺が思い始めたとき。
道の角を曲がった所で、小さな人影が突っ伏しているのが見えた。
「リッシア?!」
思わず、声が出た。
二人してリッシアに近づく。
「おい!しっかりしろ!」
声をかけてみるが、リッシアは呻きを漏らすだけで、意識がほとんどなかった。
「リッシアちゃん!しっかりして!」

リオリエはなんでリッシアのことを知ってるんだ?
って、今はそんなことより。
「こらぁ一度戻ったほうがよさそうだな。あの爺様に寝るとこかしてもらおう。」
無言で、リオリエが頷いた。
リッシアの小さな体を二人で起こすと、俺は彼女を背負った。
いざという時は勘弁だが・・・なるべく、モンスターと遭遇しないことを祈ろう。
多分、無理だろうけどな。
案の定って感じでこういうときに限ってやたらモンスターが出た。
とりあえず、倒すことよりも戻ること優先してなるべく最小限のダメージで俺たちは再びバルに戻った。
爺様は、事情を聞くより早く気絶しているリッシアを見て即座にベッドまで案内してくれた。

「んっ・・・・。」
リッシアを布団に押し込んでから数分後。
リッシアが、声を出した。
まだ眠ってはいるが、体の傷とかは・・・。
「やっぱ、回復力があるな・・・。」
ぼそっと、誰にも聞こえないように呟いたつもりだったが聞こえたらしい。
「どうしたのですか?」
リオリエが聞いてきた。
聞かれたもんはしょうがないとして、俺は思っていたことをぶちまけた。
「いや、こいつと戦った時から気になっていたんだが・・・そのときに目つきとか・・・そのあとの気遣いとか・・・。どう考えても、8歳とは少し・・・いいや、かなり違う。」
そこまで言って、俺は空気を吸い込んだ。
「だろ?」
改めて、リッシアに声をかけた。
「・・・ばれてたかしら・・・」
目をつぶりながら、リッシアがゆっくり応えた。
その目が、すぅっと開いた。
リオリエが、急に黙り込んだ。
「リオリエ、お前は知ってたな?」
リッシアのほうを見たまま、俺は声をかけた。
沈黙が帰ってきたが、それを肯定と俺は受け取った。
リオリエの代わりに、リッシアが言葉を繋いだ。
再び、目を閉じた。
「・・・わたしは、16年前にあの暗黒魔導士に呪いをかけられて以来8歳の体から一切成長しなくなった・・・。でも、頭ン中の成長は止まっていない・・・。こうやってませた口の利き方をするんですものね。」
そこまで言って、もう1回目をあけた。
今度は、瞬きと同じくらいの速度で。
「呪いがかけられてなければ、今は24歳のピチピチボデーだったでしょうね・・・。」
その頬が、少し赤くなった。
「照れながら言うな。」
ちょっと間をおいてまてよ、と思った。
俺は今、21だ。
「・・・俺より3つ上か・・・。これはちょっと驚いたりして。」
「私は故郷から奪われた魔法を取り返すために、故郷を滅ぼしたあの魔導士に復讐をしているの。・・・ううん、復讐をしようとした。何度か挑んだけれど、日に日に魔力が弱まってきていてどうにもしようがなかった・・・。さっきも、挑んでこの様よ・・・。」
自嘲気味に、リッシアの口元がちょっとだけ、歪んだ。
「ヤツは銀のペンダントを狙っている。それを手に入れたら、ヤツの魔力はもっと増すでしょう。・・・もう、復讐は無理ね・・・。もう少し、したらわたしはこの大陸を発つわ・・・。」
そういって、金袋を見せた。
「他の大陸で、あなたのくれた2000ティンと、自分の持分を足してなんとか魔導士に呪いを解いてもらうわ。解けるかどうかなんてまったくわからないけど。」
重い空気が立ち込めた。
「・・・最後にもう一度だけ挑む気は無いか?」
俺は、それを振り払うように声を上げた。
「えっ・・・。」
やや、引きつった顔をリッシアはした。
「ようはだ。そいつを倒せばいいんだろ?一人で倒せないんなら、皆で力をあわせてやればいい。俺が、手伝ってやる。」
そこまで言って、ちょっと考えた。
これじゃ俺はどこぞのヒーローみたいじゃないか。
こんなのは、俺の柄じゃないぞ。
・・・。
「ただし、これは仕事って事で報酬をもらうぞ。」
表情は顔に出さず、言った。
よし、こうすればヒーロー沙汰になることはなんとか避けられる・・・かな・・・?
「ら、ライさんっ?!報酬を取るなんてあんまりですっ!」
リオリエが、驚きと、呆れと、侮蔑が程よくブレンドされた顔をしながら言う。
いや、だって報酬取らなかったら正義の味方じゃん・・・俺・・・。
「いいんですか?!ライさん!ありがとうございます!」
リッシアが、突然声を出した。
そして、リオリエに向き合うと
「リオリエ様、わたしは自分の呪いを解くことができればお金なんて最低限、生活していけるだけでいいんですよ。」
そして、また俺のほうを向いた。
「お願いします!わたしの復讐を手伝ってください!」
そこで、リッシアが頭を垂れた。
「決まりだな。・・・多分、ヤツは城の中だろう。」
「も、もしかして・・・私の命を狙ってるヤツ・・・って・・・リッシアちゃんの復讐相手かもしれませんよ?銀のペンダント・・・って、このレグアのペンダントの別称です。」
リオリエが、自身が首から提げているペンダントの装飾とチェーンのつながっている部分を持って俺の視線よりちょっと下のところまでつまみ上げた。
それを見て、リッシアの目が点になる。
「あ・・・あわっ!そ、それです!それですよ!それを身につけているだけで、魔法詠唱の負担が大体半分になるんです!やつは、それを狙っているんです!」
一気にまくし立ててから、あれっ、と言って首を傾げた。
「そういえばあいつ・・・リオリエ様の格好をした方をつれていたわ・・・。魔力の波動があまりにも違っていたから別人だってわかったけど・・・。」
そして、もう1回首を傾げた。
「・・・・。」
「・・・・。」
俺と、リオリエがなんとも言いがたい表情で顔を合わせた。
それから、リオリエが言った。
「その方・・・私の身代わりになってくれた、シミュウさんです!」
「・・・まぁアイツはヘンテコな魔法でなんとか暫くはやっていけるだろうから最悪の事態にはならんだろうが・・・。」
よく推理物の小説で探偵がよくやるポーズをしながら俺は呟いた。
「へ、ヘンテコな、魔法・・・ですか?」
えっ、て感じでリオリエが目をむけた。
「あぁ・・・。アイツが微笑みかけてきたらその直後に傷が癒えてたり、意味不明な言葉を口走ったと思ったらそれが爆発魔法だったり・・・。」
間。
「って、まぁそんなことより。城へ急ごう!」
すっかりよくなったらしいリッシアをつれて、俺たちは城へ。
・・・その前に、レッドスライム対策に解毒剤を10個ほど、買い足した。
備えあれば憂いなし、毒に侵されてからでは遅いからな。
それから、リッシアのためにロッドを買ってやった。
木の杖はほとんど攻撃力は期待できないからな・・・。
まぁ、木の杖は名前の通り木でできていて、なまじっかのもんよりじょうぶだからいざという時は防御にでも使えないことも無いだろ。
そして、俺たちは再び地下道へ赴いた。
相変わらず、レッドスライムだらけだったが、今はシミュウの命優先だ。
そこそこに蹴散らして、俺たちは先を急いだ。
リッシアは、さっきまで寝ていたとは思えないくらいの冴えを見せた。
サポートも抜群で、シミュウとは比べ物にならない。
そんなこんなでようやく城への入り口付近に差し掛かったとき・・・。
「あれっ?!新城への経路が塞がってる?!」
リオリエが、素っ頓狂な声を上げた。
道は二つに分かれている。
看板が立てられていて、左が新レグア城、右が旧レグア城らしいが・・・。
左の道は、大きな岩がいくつも重なっていて通ることができそうに無い。
仕方なく、俺たちは旧レグア城のほうへ歩を進めた。
見つけた階段を登ると、荒れた、旧レグア城の城内に入った。
「・・・なんで荒れてんの?」
「今のお城は去年できた新しいお城なんです。多分、引越し作業が荒かったんでしょう。あとは・・・泥棒さんなどが空き城を荒らしたとか・・・。」
「・・・・。」
リッシアは、無言。
「あれ・・・そういえば・・・。」
リオリエが、急に考え込んだ。
そして、急に顔を上げると俺たちのほうに振り向いた。
「今日が取り壊しの予定ですよ!」
マジかよ・・・。悲惨だなオイ。
「ヤツは・・・ここにいるのか?少し不安になってきたぞ。」
一抹の不安を感じながら、俺はリッシアのほうを向いた。
それから、リッシアは体は8歳の子供なんだったと思い出して下を向いた。
「・・・ヤツは私を倒した後こっちの方向に行くのを見た・・・。多分、いるはずよ。」
リッシアが首がこれ以上上を向かないって勢いで俺のほうを見る。
「こりゃぁ・・・さっさと片付けたほうがよさそうだな・・・。」
そして、静寂が訪れた。
俺たちは、俺を先頭にリオリエの案内で隅々を見て回った。
1階、異常なし。
階段を見つけて、2階へ上がる。
2階・・・いや、中2階は、狭くって特には何もなかった。
いや、撤回しよう。
何も、では無い。
正確には、暗黒魔導士より性質の悪いやつがそこにいた。
「・・・ヤツ以外に誰かいるみたい。」
リッシアが、突然口を開いた。
「他に誰か・・・?泥棒さんの類でしょうか?」
リオリエがちょっと渋い顔をした。
「嫌な予感がする。恐ろしいというか・・・。」
そこまで、俺が言った時だった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
柱の影から、青い髪の男が躍り出た。
「きゃぁぁぁ?!」
リオリエが、悲鳴を上げた。
・・・こいつは・・・。
「ここであったが百年目!!ここでお前を倒し、その娘を俺のパーティに入れる!」
疾風の・・・ダン・・・。
はぁ、と咄嗟にため息が出た。
「な・・・なんですか!?あなた!」
今、いるのはシミュウじゃない。
流石のヤツもこれにはすぐに気付いたらしい。
一応、魔導士だった。そういえば。
「?!き・・・っ、貴様!摩り替えたな!」
「うんにゃ。まったくもって不慮の事故。」
俺とダンのやり取りを見てリオリエは唖然としてしまった。
「ま、いいか。とりあえず!お前を倒して復讐だっ!!」
そういうと、ダンはすぐさま魔法の詠唱に入った。
こいつ・・・大丈夫なんかねぇ?
「ついでにお前も気にいらねぇッ!あっさり俺の存在に気づきやがって!」
ダンは、それだけ言ってリッシアを指差した。
「ふん。亜獣人ナメてんじゃないわよ。」
「・・・。お、お前・・いくつだ?その口の利き方・・・。」
出た。ダンの、攻められると急に弱気になる癖。
「にじゅ〜よ〜〜〜ん。」
リッシアが済ました顔で言い切った。
「お・・・俺より、5つも上・・・。」
あれ。
こいつ、俺より下だったの?
てっきりもっと上だと思ってたけどなぁ。
「参ったか!」
「参った・・・。俺の負けだ。まさか・・・まさかこんなちっちゃい子が・・・。って。ちっがぁ〜うッ!」
ダンが、激昂した。
結構ノリのいいやつだなぁ。
まぁ、いいや。
ノしてやるか。こちとら急ぎだから、何時もより手荒いぜ。
「リオリエ、リッシア。・・・あいつは魔導士だけどマナの絶対量がやたら少ない。なんとか一気に削れないか?」
ひそひそ声で、言う。
「私、『プレッシャー』使えます!」
リオリエが、すぐに返した。
「よっしゃ、頼む!」
俺が応えるとリオリエはすぐにプレッシャーの詠唱に入った。
プレッシャーは名前の通り重圧を相手にかける魔法。
確か、マナだけじゃなく身体能力も下げるハズだ。
「マナの低い魔導士・・・。アホね。」
リッシア・・・結構言うなぁ・・・。
とは口には出さず、俺は切りかかった。
流石に、血だらけにするのもアレだから、抜かずに鞘でぶん殴る。
詠唱途中だったダンは見事に食らった。
そこに、リッシアのロッドが低い位置に入り、ダンは、見事にコケた。
勢いよく顔から地面に突っ込んだ。
うごぁっ!っていう悲鳴が聞こえた。
「プレッシャー!」
リオリエが、そこにプレッシャーを叩き込んだ。
ダンの体を不思議な光が包み、ダンから力をこそぎ取っていく。
「あ・・・あれっ?」
顔を上げたダンは、すぐに体の異変に気が付いたらしい。
「いつまでボケてんねん。」
「ぐぬぬぬぬぬ・・・・!」
地面に突っ伏したまま、ダンが唸り声を上げた。
「お前に言われてあれから風の魔法を習得するのにいろいろしたおかげで魔力使い切ってしまったんだった!すっかり忘れてたー!」
くそー、とダンが右手で拳を作りどんどんと地面を叩く。
「一応、努力はしてんのね。」
あきれたが、とりあえずこいつにはどいてもらわねばならない。悪いけど集中攻撃行かせてもらいます。
「ぎぃやぁぁぁぁ〜〜〜!!」
旧、レグア城内に、大きな悲鳴が響き渡った。
「タ〜〜〜〜〜コ。」
リッシアがあくまで済ました顔で言い切った。
結構毒もってんなー、こいつー・・・。
「・・・あ。」
ふいに、リッシアが声を上げた。
「私の魔力がちょっと戻ったみたい。なんでだろ・・・。」
リッシアが首をひねっている。
「『喜び』の力なんじゃないの?」
「・・・?」
リッシアが、俺のほうを向いた。目が、点。
「どこかで聞いた話なんだがな。魔導士の魔力は本人の精神状態にも左右される所があるらしい。俺たちがお前の復讐に協力するって言ったから、結構嬉しかったんだろ?」
「う・・・うん・・・。嬉しいんだ・・・私・・・。ほんとに嬉しいよ。」
リッシアが、胸に手を当てて呟いた。
そして、
「ありがとう・・・みんな・・・。」
そう付け足した。
「さ、次いこ!」
リッシアは顔を上げると、2,3歩先に進んで振り返って言った。
俺たちは頷いて、3人並んで階段を登って行った。
「・・・俺の入る隙間・・・なかった・・・。」
ダンが最後にそう呟いたのは誰も知らない。

2階、異常なし、と。
俺たちはさらに3階へ進んだ。
玉座は近い、とリオリエが言った。
が、その割には複雑なつくりになっている。
不審者対策といえどもこれはやりすぎじゃ・・・?
あちらこちらの落ちているガラスの破片や、石ころを注意深くかわしながら俺たちは玉座・・・もと、玉座にたどり着いた。
椅子は既になかったが。
「シミュウ!!」
「ライ〜〜〜〜!怖かったよ〜!なんだか知らないけどいきなりさらわれるんだもん!」
シミュウが、目いっぱいに涙を溜めて俺に飛びついてきた。
暗黒魔導士、無視かよ。
暗黒魔導士は、偽者には用は無い、とシミュウに一瞥くれるとリオリエに向き直った。
「そっちが本物の姫だな?」
「えぇ!」
「さぁ、銀のペンダントをよこせ!」
「いやよ!」
「・・・ん?」
暗黒魔導士は首をすくめ、一旦俺たちを見た。
そして、リッシアを見て頓狂な声を漏らした。
「お前も懲りないやつだな。これで、64回目だぞ。」
64回・・・。
そこまで挑むリッシアもリッシアだけど、数えてるこいつもこいつだ。
「魔力の無いお前なんぞ、ただの、猫人形だ。」
「ねっ、猫人形?!ひ、ひどい・・・!」
リッシアが、珍しく、泣いた。
「俺の敵・・どうしてこうもことごとく女泣かせなんだろーな・・・。」
「うるさい!お前には関係ない!」
これが漫画だったら、くわっ!って効果音が挿入されてるんだろう。
そんな勢いで暗黒魔導士が俺のほうを向いた。
「お前なんかこの間この猫人形に吹っ飛ばされていたくせに!」
「うわっ!きつっ!」
あら見てたのね〜・・・。
「ちっ、まぁいい。ここは今日が取り壊しのはずだ。俺が手を下すまでも無いだろう。時間だけかせいで、お前たちが瓦礫に埋もれた所をゆっくり探せばいい・・・。」
いきなり役に戻るなよ・・・。
「いでよ!亡霊騎士!!」
暗黒魔導士はそういうと、両手をかざした。
すると、そこから稲妻がほとばしり、ある一点でそれが集まった。
その稲妻が、ごついナイトになった!
わずかに浮いていたため、足を地に付けた瞬間城が揺れた。
「ふふふふははははは!!!こいつといっしょに瓦礫に埋もれてしまえ!あの世で悔しがっているといい!」
暗黒魔導士は、今度はそういって右手を掲げた。
暗黒魔導士の体が一瞬光って、そしてそこから消えた。
「くそっ!逃げられた!」
「ライさん!今はとりあえずここから逃げることが先決です!」
リオリエが、亡霊騎士とやらと向き合いながら声を張り上げた。
「早く出ないと、大変なことになるっ!」
リッシアが、同じく向き合いながら声を張り上げた。
「・・・そうだな、早いトコけりつけないとまずいな。シミュウ!戦えるな?」
「うん!」
シミュウが元気に返してきた。
「おっしゃ、行くぞ!」
「合点!」
シミュウのその言葉を合図に、俺たちは一斉に亡霊騎士に突っ込んだ。
いや、正しくは俺だけつっこんだんだけど。
だって、後の3人は遠距離攻撃できるんだもんな・・・。
しかし。
「こけこっこ〜〜〜!」
・・・・・・。
「こいつもかーっ!」
「また気が抜けちゃうよぉ・・・。」
なんなんだよ、なんでこんなもんをわざわざ召喚する?!
畜生、しょうがねぇ!
俺が、二段斬りを放ち、リッシアがホーリーを唱える。
シミュウがなんかよくわからない爆発魔法を唱えて、リオリエがプレッシャーを唱える。
亡霊騎士は、体が大きいせいもあってか周りを動き回る俺に切り込もうとしてシミュウから爆発を食らいコケる。
しかし、呻きとかうなり声の代わりにニワトリの鳴き声を出すもんだからやる気なくす。
特に、初体験のリッシアとリオリエは真剣に気が抜けていたようだ。
俺がなんとか腕や脚を薙いでいるうちにシミュウが思いっきり体を揺さぶってなんとか起こしていた様だ。
そして、ある程度やっているうちに、みんなの攻撃がちょうど、同時に入った。
その瞬間、亡霊騎士は間抜けな泣き声を上げて、消滅した。
「脱出するぞ!急げ!」
俺が振り向きながら右手を挙げて手招きする。
そして、その後ろから3人が付いてきた。
3階の入り組んで瓦礫がそこここに落ちている所をひょいひょいと跳んでかわしながら進む。
2階、中2階の特に何も無いところを急いで抜けて。
1階、なるべく瓦礫の少ないところを選んで、俺たちはそこを走りぬけた。
俺が階段を下り、リッシアが続いてリオリエが続いた。
シミュウが、そこで、コケた。
慣れないドレスを着ていて上手く動けなかったんだろう。
「シミュウ?!くそっ!」
コケたシミュウを見て、すぐに俺は階段を登った。
いつここが発破で爆発するかわからない。
俺の額に、冷や汗が浮かんだ。
起き上がりかけていたシミュウを背負うと、俺は階段めがけて走りこんだ。
段をほとんど使わず、何段も跳んで地下道まで一気に通過した。 今まで衝撃を無視して降りてきたため、最後に地下道に足をつけたとたん、がくっと俺はひざを付いた。
シミュウが、そこで背中から降りた。
一気に体が軽くなる。
その瞬間。
本当にその瞬間だった。
上から、すさまじい爆音が響いてきた。
それは、地下道の壁という壁を反響して遠くまでこだまして行った。
「な、何とか間に合ったな・・・。」
額の辺りの冷や汗をぬぐって、腰を下ろして言った。
「危ない所でした・・・。シミュウさん、ライさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、なんとかな・・・。」
「僕も大丈夫・・・。ライ、ごめんね・・・。僕のせいで・・・。」
シミュウが、こぼれる涙を気にせずに怪我なんて無い俺に何回もキュアをかけてくる。
「わ、わかった!怪我は無い!怪我は無いから!そんなにキュアをかけなくていい!」
「あ、ご、ごめんなさい・・・。」
「ふぅ・・・。ま、気にすんな。」
「リッシアちゃんも、怪我は無いですね?」
「えぇ、特には。」
リッシアが、安堵の表情で頷いた。
「おっしゃ、バルまで戻るか。」
みんなが、いっせいに頷いた。
そして、リッシアが一歩前に出た。
「ここはわたしにまかせて。・・・レイミス!」
暫し詠唱の後、リッシアが脱出魔法を唱えた。
俺たちの周りを光の粒が覆った。
そして、俺たちは自分達も光の粒になったような感じを味わった。
周りの光の粒は、それぞれ俺たちに付くと、そのままものすごい勢いで出口(この場合入り口だ)へ走り始めた。
すぐに、上りの階段が姿を現した。
光の粒は、そこで急停止すると、すぐに薄れていき、俺たちはまた自分達の体が元に戻ったような感じを覚えた。
俺たちは、階段の目の前に立っていた。
そして、誰からともなくそれを登り始めた。

4.「デグレザレズ」

バルに戻った瞬間、まずシミュウが喋った。
「僕、この格好もう疲れちゃったよ〜。」
それを聞いて、リオリエがすぐにシミュウのほうをむいた。
「それでは、元に戻りましょうか。シミュウさん、今までありがとうございました!それと・・・これは私からの餞別です!」
そう言うと、リオリエは首から提げていた銀のペンダントをはずすと、シミュウにかけた。
「え・・・僕に?」
シミュウは、こともなげに言ってのけた。
銀のペンダントを、珍しそうに見ながら。
「せめてものお礼です。」
でも、とシミュウがペンダントを手のひらに載せながら、
「いいの?大事なものなんでしょ?」
一応、こいつにもそういう感情はあったんだな。
理性なんてかけらほどしかないと思ってたがねぇ。
「もらってください。私が持っていても、役に立てることはできませんから・・・。それならば、使ってくれる方に譲ったほうがペンダントも嬉しいでしょう。」
「・・・ありがとう!」
シミュウが、にっこり笑った。
その様子を、リッシアがちょっとうらやましそうな目で眺めていた。
俺は、相変わらず蚊帳の外。
「さ、着替えましょ!私はこれからいろいろとやることがあるのでみなさんとはここでお別れです。今までありがとうございました!」
俺はジャマだな・・・。
とか思いつつ部屋を出ようと・・・して、振り返ってリオリエに言った。
「もう身代わりとかはすんなよ」
それだけ言うと、俺は家の外に出た。

「はぁ〜あ、今回はしんどかったわ・・・。それにしてもあの二人、ほんと瓜二つだったなぁ・・・。身代わり騒動はもうお断りだ・・・。」
はぁ、と家の壁にもたれながら俺はため息を付いた。
シミュウと会ってからと言うもの、なんだかため息の回数が多くなったような気がするよ。
「ふぃ〜〜。やっぱりこの服装が僕には一番似合ってるよ!」
シミュウが伸びをしながら、家から出てきた。
「っとに。そう気安く身代わりになるもんじゃねーぞ。」
「ごめんなさ〜い。」
そう反省してる様子は見せずにシミュウは頷いた。
「あれ?リッシアは?いっしょじゃなかった?」
「ちょっと休んでたみたい。・・・あ!」
いきなり、シミュウが叫んだ。
「な、なんだよ?」
「僕、まだあの子にライの敵討ってない!」
「いや、もういいから。」
「む〜・・・。」
今度は、渋い顔をした。
真剣だ、この目つきは。
「ライさん、わたしの家に来ませんか?」
家から、リッシアが出てきながら俺に言った。
リッシアの家?
どんなとこだろね。
「いーけど・・。どーした?」
「まだ復讐は終わってませんが、ここまでのお礼がしたいのです。」
この一言で、忘れかけていたことを思い出した。
「そうだった。報酬をもらわないとな。」
「私の家はここから西に行ったところです。申し訳ありませんが、結構歩きます。」
かまわんよ、と軽く左手をひらひらさせて、俺は歩き出した。
まってよぉ、とシミュウが慌てて付いてきて、それに無言でリッシアが続く。
バルを出て、俺たちはひたすら西に進んだ。
川を越えてからは、リッシアが先頭に立って道案内をしてくれた。
リッシアの家は、川を越えてからはすぐに見つかったけど。
ちいさな一軒家。
そこに、迷わずリッシアが入っていった。
俺たちはそれに続いた。
「今お茶を用意するので待っていてください。」
台所に入りながらリッシアが言った。
ので、俺たちは遠慮なく椅子に座って待つことにした。
しばらくかちゃかちゃと陶器が触れ合う音が聞こえてきたが、すぐにやんで、リッシアが3人分のコップを盆に載せて戻ってきた。
「呪いをかけられてからずっとここに住んでいるのか?」
リッシアは手際よくコップを盆からそれぞれに渡している所だったが、それを聞いて一瞬だけ手が止まった。
しかし、すぐにまた手際よく動き始めた。
そして、自分も椅子に座った。
「えぇ。たまたま、この空き家を見つけて。それからずっと、ね。」
「ところであなた、なにがあったの?」
事情を知らないシミュウが首をちょっと傾けながらリッシアに尋ねた。
俺は、その様子を見ながらリッシアが出してくれた茶をすすった。
「あなたには話して無いわね。・・・闘技場にはいたわよね?」
「わかってたの?」
ちょっと驚いた顔をして、シミュウは返した。
リッシアは頷いた。
「あなたからすごく強い魔力を感じたの。」
「僕・・・そんなに魔法使えないよ?」
「あれっ?気のせいかな?まぁ、いいわ。」
一旦リッシアが茶を飲んだ。
「わたしはあの暗黒魔導士・・・名前、なんだったかな・・・?もう覚えて無いわ。とにかく、そいつに呪いをかけられてしまったの。・・・16年前にね。」
16年前にね、をリッシアはわずかに強調した。
「えっ?!・・・て、ことはあなた・・・」
計算がすぐにできなかったらしい。
「24?」
「えぇ。この8歳の身体から成長しなくなったの。わたしの魔力を恐れてでしょうね。8歳だったあの頃、既に爆発系最強魔法『バーストリエンス』を使えたからね。」
そこまでリッシアが言った時、俺は思わずちょうど飲んでいた茶を少し吹き出してしまった。
コップを持つ手が、ちょっと下がる。
バーストリエンス・・・!
ホントかよ・・・信じられねぇ。
「まぁ、『バーストリエンス』は封印してたから1度も使ったこと、なかったけどね。今はヤツに呪いをかけられてほとんどの魔法が使えなくなっちゃったけど・・・。」
ふぅ、とため息が洩れる。
今まで結構リッシアが魔法を使ってるのを見たが・・・あれで「ほとんどの魔法が使えなく」なったもんなのか?
魔法ができない俺には規模がでかすぎてよくわからん。
「わたし、アイシクル地方の少し南の集落出身なんだけど、その近くに強力な魔法を封印した神殿があるの。ヤツはそれを手に入れて世界征服をしようとしているみたいなんだけど、魔力のあるわたしがガーディアンとしてずっと戦っていたの。そのときヤツに呪いをかけられてこの通り。」
リッシアが、目を閉じた。
暗い過去なんざ、誰だって話したくないよな・・・。
しかし・・・アイシクル地方かぁ・・・。
俺の故郷もアイシクルのちょい南のほうだ。
なんかの偶然かねぇ・・・。
「結局、魔法はヤツに取られたわ。・・・でも使えてはいないみたい。ヤツがあの魔法を使えないうちに取り返したほうがいいのはわか・・・・」
リッシアが、急に話を切った。
・・・やっぱわかるんだろうな。
それなりの修羅場を抜けてきたんだ。女といえども、だ。
「来たみたいだな。」
「ほへ?誰が?」
「折角だ。迎えてやるか。」
俺たちは連れ立って家を出た。
そこには、例の暗黒魔導士が立っていた。
「なんの用だ?」
「今から、ここから東にあるレグア峠まで来い。これで、最後にしようじゃないか。待っているぞ!」
言うだけ言うと、暗黒魔導士は消えた。
恐らく、ワースを使ったんだろう。
「・・・ヤツは何かたくらんでいるな。どうする?行くか?」
聞いている途中で、リッシアが大きな声で言った。
「もちろん!!ヤツを倒せるのならこの身が果ててでも!!」
「決まりだな。行こう。」
リッシアが行くというのなら、行くしか無いだろう。
シミュウも連れ立って、一路レグア峠を目指した。
しかし、川のあたりまで来た時だった。
後方、リッシアの家のほうから大きな爆音が聞こえてきた。
振り返ると、跡形もなく吹っ飛んだ家の破片が宙を舞っているのが見えた。
「て、ことは・・・ヤツは、本気ね・・・。」
リッシアが、重々しく呟いた。
16年も住んだ家、だもんな。愛着もあるだろう。
「行きましょう・・・。」
それだけ言うと、リッシアは歩き始めた。
俺たちは、すぐに、後を追った。
リッシアは身体は子供だから、追いつくのはわけも無い。
レグア城を通り過ぎ、バルを背に俺たちはレグア峠にたどり着いた。
レングレルほどの山がいくつか連なっている山脈の通り道になっているようで、その幅はあまり広くない。
その峠のちょうど中腹の辺り。
山の中腹にも位置していて、道幅もやや広くなってきたあたりに、ヤツはいた。
ヤツは、俺たちの姿を見るなり口を開いた。
「来たか。」
リッシアが、俺たちよりも一歩出て、暗黒魔導士と向き合った。
「これで・・・最後ね。デグレザレズ。」
リッシアが、返した。
デグレザレズ?ヤツの名前か?
・・・不吉な。
「どちらが死ぬか。勝負だ・・・!」
「ライさん、ここまできてもらってアレだけど・・・わたし、一人でやらせて・・・。」
リッシアは振り返らずに、暗黒魔導士、デグレザレズと向き合いながら俺たちに言った。
「・・・わかった。」
俺は、リッシアの考えがわかるような気がする。
やはり、復讐の果たすなら、自分の手で。
人の力を借りる時は、やむをえない時・・・。
シミュウが、何か言いたそうな顔をしてこっちを向いた。
そして、何か言いたそうな顔で何かを言おうとしたので、俺はもうジャマになら無いようにシミュウの口をふさいだ。
む〜!というくぐもった声が洩れる。
俺は、シミュウを引っ張って少し2人から離れた。
その様子を見て、デグレザレズが言った。
「いいのか?猫人形。」
「あぁ・・・構わないよ・・・!もし、わたしが死んだら。報酬払えなくなっちゃうけど・・・そのときは、わたしを放って逃げて・・・。」
リッシアが、俺たちに、最後かもしれない言葉を投げた。
そして、その瞬間、あたりに魔力と、殺気が満ちた。
2人とも無言で対峙する。
ひゅうぅぅぅ・・・と峠独特の風が吹いた。
その風が、リッシアにあたり、リッシアの小さなローブと猫の耳が揺れた。
「・・・・?!わ、わたしの体の中に何かが流れ込んでくる・・・?!・・・魔力が、私に・・・・?」
「な・・・なにっ?!」
リッシアの身体に魔力が注ぎ込まれたのを見、デグレザレズの表情が驚愕で染まった。
「・・・サンダー!」
そして、リッシアが、ゆっくりと、感触を確かめるように魔法を放った。
暗雲が空間に生まれ、電撃が走る。
雷が、重い、不協和音を響かせて、デグレザレズの全身を貫いた!
「・・・・・っ!!」
その表情が、更に、痛みに対する耐えで苦痛に歪んだ。
「な・・・ナメおって!」
雷に打たれたデグレザレズが、右手を、そして左手を前へ突き出した。
その両手に、赤の波動と青の波動が練りこまれて大きくなっていく。
「ファイアムッ!」
右手から、大きな火炎が放たれた。
「アイスムッ!」
やや遅れて左手から、大きな氷の刃が放たれた。
リッシアの眼が、炎と氷を見つめている。
リッシアはよけようともせず、その場から動かない。
「ヒートバリアッ!」
右手を掲げてリッシアが叫んだ。
瞬間、リッシアの周囲を淡い、赤の膜が覆った。
「コールドバリアッ!」
左手を掲げてリッシアが叫んだ。
瞬間、リッシアの周囲を淡い、青の膜が覆った。
二つの膜の色が合わさって、薄い紫の膜がそこに出来上がった。
炎は、その膜に触れて空間で停止し、氷がそこに突っ込んで大きな蒸気があたりを包んだ。
その蒸気の中をリッシアが駆け抜けた。
デグレザレズの視界を、炎と氷が生み出した蒸気が覆い、それを払うように両手を振る。
「くそっ!何も見えん!・・・?!」
顔を上げたデグレザレズの両の眼が、両手に魔導の渦を溜めてわずかに晴れた蒸気の中からまっすぐに走ってくる、小さなリッシアの姿を自身の頭に焼き付けた。
「ホーリーッ!」
そのまま両手を、デグレザレズの胸に、下から突きつけた。
デグレザレズの胸に直に、リッシアの手からホーリーが放たれた。
両の手から離れた魔力の波動は、至近にあったデグレザレズの胸、そして心の臓物を貫き、更に勢いを失わずにデグレザレズの下顎を砕いた。
大量の、赤い赤い液体が貫かれた勢いで背中、そして顔から噴出して周囲を深紅に染め抜いた。
リッシアの黄色いローブと幼いが整った顔の頬に、わずかに血が飛んだ。
最期に、デグレザレズは古の呪術を口にしていた。
断末魔は、叫びの代わりに巨大なる魔法を唱えた。
死なば諸共、と。
そして。
巨大な時空の扉が開いた。
渦を巻いて、詠唱者、デグレザレズを、いや、デグレザレズだったものを吸い込み始めた。
その様を、見開かれた両の眼がずっと見つめていた。
しかし、その眼はずっと、両手に魔導の渦を溜めてわずかに晴れた蒸気の中からまっすぐに走ってくる、小さなリッシアの姿を映し続けていた。
そして、デグレザレズだったものは、渦に呑まれこの時空から消え去った。
「・・・今のは・・・。」
思わず、俺は呟いた。
「ヤツは・・・自分自身の魔力に飲み込まれたみたい・・・。あの魔法の、正しい使い方を知らないものが使うとこうなるのかもしれない・・・。」
リッシアが、頬に付いたヤツの血をローブの端で拭いながら、ゆっくりと、言った。
その様を、俺たちはただ、ずっと見つめていた。
「・・・・・・終わった・・・・・・!やっと・・・終わったのね・・・。」
感無量、といった感じで、リッシアが呟いた。
「ヤツの使おうとしていた魔法がわたしの中に流れ込んでくる・・・。封印・・・する、つもりだったのに・・・。」
リッシアが、両手を自分の胸に当てた。
そして、それを払いながら俺たちのほうを振り返った。
清々しい顔だった。
晴れやかな、もうこれ以上無いってくらいの満面の笑顔。
「おめでとな、リッシア。」
「ご苦労様!」
それを聞いて、もう一度、リッシアが笑った。
「ありがとう・・・!」
つられて、俺とシミュウも微笑んだ。
「それじゃぁ、行こうよ!」
シミュウが俺とリッシアよりも前に行き、振り返って言った。
「おぅ。」「えぇ!」
俺たち3人が通過したレグア峠に、赤い血だまりができていた。
そこを、風が通り過ぎ砂を飛ばしそこを埋めてしまった。
峠を通過した俺は、ふと思い立ってリッシアに聞いた。
「ところでよ、リッシア。あいつが死んで・・・お前にかけられた呪いは解かれたのか?」
「えぇ。解かれたわ。これからこの身体はこの姿から成長していくハズよ。」
「そうか。よかったな。」
「ねーねーリッシアちゃん、勢いで3人ともこっちに抜けちゃったけど、これからどうするの?」
間にシミュウが割り込んだ。
珍しくまともな事を・・・。
「わたし・・・どこにも行く当てが無いわ・・・。」
言いながら、リッシアの視線は俺のほうを向いていた。
「わたしも、あなたたちに着いて行きたいんだけど・・・ダメ・・・かしら?」
「・・・・・・いただこう。」
「その言葉絶対使う場所間違ってる!!」
びしっ!とシミュウが突っ込んだ。
わかってるさ。
わかってるが、他に言葉が見つからなかったのだ。
「・・・報酬として?」
「そういうことにしておけ。このまま帰すと報酬もらえずじまいになっちまうからな。」
ちょっとだけ間をおいて、
「なんか、人さらいみたいなセリフにも聞こえたりして。」
「これ、俺の報酬制度。『もらえるものなら何でも貰う。』」
二人が、黙った。
とどめだ!
「ただし、場合によっては返品あり!」
更に二人は黙った。
勝った!

先に口を開いたのはリッシアだった。
「あ、そうそう、これ・・・。ライさんから頂いた2000ティン。これはお返しします。」
「そ、そうか。」
「はい。おかげで使わずにすみました。」
そして、リッシアが微笑んだ。
「・・・ん?」
やや遠く、そこに船着場が見えた。
そこへ、一艘の船が滑り込むようにゆっくりと入っていく。
「ちょうど船も来たみたいだ。行くか。」
船着場のほうを向き、顔だけ後ろを向けながら言うと、二人が無言で、しかし笑顔で頷いた。
船着場まではそう、遠くはなかった。
歩いても本当にすぐだった。
船着場の案内所に入り、どこ行きがあるかを確認し、そしてどこへ行こうかを二人に尋ねた。
「次は、どこへ行こう?」
すると、即座にシミュウが手を上げて言った。
「僕、ライの故郷に行ってみたい!」
「るゑ?!」
「僕寒いところ行ったことないんだぁ!」
「・・・ライさんは、どこのご出身なんですか?」
寒いところと聞いてリッシアがこっちを向いた。
「・・・アイシクルだ。ちょい南。南というよりは真ん中で真ん中というよりは南だ。」
「・・・ライさんも、ですか?」
「まぁな。」
「シミュウ・・・あそこ、すっごく寒いよ?そんな格好じゃ、凍死しちゃうよ?」
リッシアの忠告を半ば無視して、
「だいじょ〜ぶ!」
何が大丈夫なんだか、シミュウは自信満々で言い切った。
「・・・。」
リッシアが呆れ、俺は心中絶対根拠ナシだと思った。
ふぅ、とまたしてもため息をついてちょっと思う。
「そういえばここ3年は帰ってないな・・・。たまには、帰ってみるかぁ。」
「わぁ〜い!!」
俺が行った瞬間シミュウが飛び上がった。
やめろ、ここは公衆の面前だ!
「たまに帰るのもわるかねーだろ。・・・妹のことも心配だ。あいつ・・・病弱だしな・・・。」
「妹?」
ぴくっと、シミュウが固まった。
「・・・なんでそこで固まるんだよ。」
「い、いや、なんでもないっ!なんでもないヨ!」
そういって、シミュウはさっさと船に乗り込んだ。
もちろん、アイシクル行きの船に。
「あいつ・・・そんなに俺の故郷見たいのかな?」
俺が人差し指で頬を掻いてると、
「ライさん、ちょっと・・・。」
リッシアが小声で言いながら俺のジャケットを引っ張った。
「んぉ、何?」
俺が声量にあわせてしゃがむと、リッシアが耳打ちしてきた。
「シミュウって・・・子供っぽいわね。」
「・・・お前が言うと妙だな。」
「いや、まぁ、そうだけど。」
「マセガキと勘違いされるなよ?」
俺は立ち上がって、ぴこんと猫耳をはじいた。
方目を瞑って、リッシアが頷いた。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

ヘンな二人のコンビに加え。
身体は子供の24歳の女の子(笑)が新たにパーティに加わりました。
まだ三人の旅は始まったばかり、これからどんな冒険が待ち構えてるのやら・・・。
そんなことも深く考えず三人の旅は続くのでした。


第3話へ続く。