ここはどこぞの世界・・・。
名は・・・「フェイレン」とかいったかな?
私たちの住んでいる世界とは違い、
剣と魔法が三度の飯並に普通の世界・・・。
ある国では戦争で人々が苦しみ、
ある国ではのんびり平和に暮らし、
ある国では年中お祭り騒ぎ・・・。
ある冒険者は苦しむ人々のために魔王討伐、
ある冒険者は富と名誉のためにひた走り、
ある冒険者はクエスト探しては遂行失敗し、
ある冒険者はカジノから出なくなり・・・。
これから展開される話はちょっと奇妙なお話・・・。
まぁ、他の冒険者から見ればどうだっていい話ですが・・・。
一人の男性剣士と一人の女性盗賊・・・。
そんな二人が織り成す珍道中・・・。
今回のお話はそんな二人がはじめて出会うお話。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

0.「ライ」

俺の名はライ・ベイティクス。
フリーファイター・・・。
と言うよりは完璧な賞金稼ぎだ。
故郷はずっと北のアイシクルと言う寒い所だ。
今俺は一応剣の腕を磨く旅をしている。
一応っていうのはまぁ・・・本当は目的はたいして無いんだけどな。
赴くがままってトコか。
でも、男に剣技。
女の料理と同じように身に付けとけばそれなりのステータスになるってもんだ。
で、俺は気候も暑くもなく寒くもなくちょうど良い気候のレグア地方に来た。
ここでしばらく賞金稼ぐとするか・・・。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1.「疾風のダン」

ほどよい心地の風が緩やかに船着場と、俺の辺りを通り過ぎる。 俺は今、ちょうど船でここにやってきたところだ。
一歩船着場の建物から出ると、久々に乗った地面の感触がそこはかとなくうれしかったりする。
ちょうどよい熱を出している太陽をバックに、俺はちょっとだけ伸びをした。
「まずはさっき、案内で聞いたパッテクスってトコに行くか・・・。確か、ここからまっすぐ南だったな。」
情報の確認をするように一言二言呟いて、持ち物を軽く確認する。
今まで使ってきたショートソードが俺の手に触れた。
それから、皮の胸当てにハチマキ。
んで、金袋。中身は船賃を払ったから500ティンだ。
うっし、準備は万端だ。行こう。
パッテクスまではそう遠くは無いらしい。
ていうか、もう既にここから少しだけど家の屋根とかが見える。
30分ちょっとってトコかな?
まぁいいや。
これくらいの距離ならモンスターに会うこともないだろ。

道中草原と、林があった。
まぁそんな大きくない。
申し分程度にちょこちょこっとある、見たいな感じ。
パッテクスはすぐだった。
大きい町とはいえ無いが、船着場が近いせいか結構にぎわっている。
「まずは仕事探しだな。『アドベンチャーギルド』か。」
町に入ったら賞金稼ぎたるものまずは仕事探しだ。
ま、流石に疲れてりゃ宿屋に直行だけどよ。
今回はそんな疲れて無いからな。
「あら、旅の方ですの?パッテクスへようこそ!」
ちょっと歩いたところで町の娘さんに声をかけられた。
どうも、と声を返しておいたが、喋り方がちょいと気になったかな。
ん?あぁ、なんでもない、こっちの話。
町の真ん中辺りの池では同業者らしきヤツに話しかけてみた。
「ここら辺って平和だな・・・。いい事なんだけど、こっちとしては困る。複雑な心境だ。」
平和、か。
そうだよな。
平和だったら俺らフリーファイターの仕事なんざなんも無いワケだ。
城の兵隊とかもそうなんだろーな。
まぁ俺らが暇なのはいい事なんだろうけど、それじゃ生きていけないわけだ。
「俺も同じだ・・・。」
思わず言ってしまった。
隣にいた同じく同業者っぽい女にも話を聞いてみたところ、
「この辺って平和で遺跡とかも無くてつまんない・・・。さっさとアウアドスへ行こう・・・っと。」
遺跡って言葉が出たってことはトレジャーハンターなんだろう。
まぁ、一般人には不謹慎だろうな・・・。
しかし・・
「アウアドス?それはなんドスか?」
気になったので言ってしまった。
・・・・・・みぃーん・・・・。
静寂に音があるんだったらこんなかんじなんかねぇ・・・。
「ぐあっ!!」
反応ゼロ・・・ショックだ。
「自滅するんだったらそんなオヤジギャグ言わないでよ。虚しくなるから。」
・・・言われてしまった。
んだけどそのとおりだ・・・。うぐ。
「ここから南だったかしら、船で渡ったところに僧侶育成学校がある魔法都市があるのよ。魔法都市・・・なんか遺跡がありそうな香りがするわ!」
いろいろとありがとうございました・・・。
思考を遺跡中心に考えてるのはそのクラスの性ってヤツかねぇ。
「ふむ。魔法はキュア以外はダメだが、行ってみたいな。よし、余裕があれば行ってみるか。」
アウアドス。
その名前を頭に入れとこう。
いけるかどうかはわかんねぇけど。
言ったとおりだけど、俺は魔法はからっきし。
ちっさいころから狩りとかして生活してきたから魔法に関することは一切身について無いんだ。
まぁ旅に出てから必要最低限必要なキュアはなんとか覚えることができたが、依然それ以外はダメだ。
武器の効かない硬いヤツが出てきたらどうしようかとちょっと思ってる。
なんていろんなトコ回ってギルドを探した。
結局ギルドは町の西にあった。
小さい。
ま、大体ギルドはこんなもんだ。
中に入ってみると、ギルド独特の雰囲気がする。
そこにいるのは・・・パッと見、プリースト、フリーファイター、セージ、ハンターってトコか?
ま関係ねーや。
仕事仕事。
「おっつぁん。仕事ある?」
カウンター越しにギルドのおっつぁんに声をかける。
さっき平和だって同業者が言ってたからなぁ・・・どうだろ。
「ない。以上。」
「・・・・・。」
空いた口がふさがらないったぁこのことかも。
一言かよ・・・。
「実は最近平和で平和で。仕事が入ってこないんだよ。また後で来てくんな。もしかしたら入ってるかもな。」
「そうか。わかった。また来るよ。」
一応そういっといたけど・・・あまり期待はしないほうがよさそうだ。
どうしようねぇ。
「参ったな。無しか。」
ぼやきながらギルドから出ると・・・なんか池の辺りが騒がしい。
「ん。」
おもわずそっちに目が行った。
そこには、なんかちょっとした人ごみができてた。
当事者っぽいのは、どこぞのショボそうな男の魔法使いと泣きっ面で女の・・・ん?なんだ?
トレジャーハンター・・・か?ちょっと違うような気がする。
「ねぇねぇ。僕とパーティ組まない?」
魔法使いがその女に言っている。
でけぇ声だなー。ここまで聞こえるよ。
「もう勘弁してよォ〜・・・!」
泣きっ面の姉ちゃんが迷惑そうに言っている。
よっぽどイヤなんかなー・・・あー、それかよっぽどしつこいんだろーな。
「・・・かわいそ。」
「そうよね・・・。サイテ〜。」
「泣いちゃってるよ。あの娘。」
まわりの人がなんか言ってる。
・・・実際その通りだよな。
でも、だれも助けようとしないのはこういうときはお約束なのか。
「ね、どぉ?」
ショボ魔法使いが言った。
「もぅやだぁ!」
「たまには無償奉仕も悪くないな。」
自分で自分を言い聞かすように言うと、俺はその人だかりの中へつっこんだ。
「おい。」
俺は後ろからショボ魔法使いに声をかけた。
「あ゛ん゛?何だお前。」
ガンつけながらそいつは振り返った。
声に、めっちゃ棘がある。
睨みつけてっけど・・・わりぃ、あんま怖くねぇ。
「今忙しいんだ。俺に構うな。」
「女いじめて楽しいか?」
「なんだとぉ?俺に喧嘩売ってんのか?」
「そういう風にとってもいいぞ。俺はそのつもり無いけどな。俺はとりあえず人助けだ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・。とりあえず。俺に喧嘩売ったんだからただではすまないぞ!泣く子も黙る天下御免の『疾風のダン!』様にひれ伏すがいい!」
・・・そういうとそいつは俺につっかかってきた。
疾風のダン、ねぇ・・・。知らねぇ。
「しゃーない。やったるか。」
そう言って俺は剣を抜いた。
一応平和的に解決したかったんだけどねぇ。
とりあえずしばいてみる。
したらファイアが返ってきた。
熱い熱い!
くそー、魔法は苦手だ・・。
火傷の跡に手をかざしてキュアを唱える。
傷が癒えて、体が軽くなる。
したらまたファイア。
あー、めんどいなぁ。
キュア、結構疲れるんだよな、俺の中では。
もっかいキュアを唱える。
「あ・・・あれ?」
向き直った時、詠唱の構えで間抜けな面してるそいつが目に入った。
「・・・。マナ尽きた?」
まさかと思って聞いてみると、
「ぐぬぬぬぬぬぬ・・・。」
ってうめきが返ってきた。
・・・ショボ。
マナが尽きた魔法使いなんざ、相手になんねー。
2回くらい杖で殴りかかってきたけど魔法使いの力じゃねぇ。
ひょいひょいとかわしてやった。
んで数回しばいてやったらすぐにノびちまった。
これでスッキリ。
250ティンを賞金として奪ってやった。正当な稼ぎということで・・・。
で、マナポーションももらってやった。
・・・?使えよ。
その一部始終を、ねぇちゃんがぽか〜ん・・・とした顔で見てた。
「『疾風のダン』なんて聞いたこと無い。」
そういってちょっと睨んでやったら
「・・・ひ・・・ひぇぇぇぇぇぇっ!!」
とか叫びながらどっかいっちまいやがった。
そのまま野次馬たちもどっか行った。
「じゃ。」
背中向けて行こうとしたら、
「あ・・・あのっ!!」
ねぇちゃんが声をかけてきた。
「なに?」
くるりとまた向きを変えて聞いてみた。
こんな時でも素が出ちまうなぁ・・・。
「お強いんですねw」
・・・ハートマークが語尾についてたような・・・。
「あ・・・あのっ!また襲われるのも怖いんで。一緒についていきたいんですけど。」
さっき泣いてたのどこへやら。
すっかりけろっとしてやがる。
「やだ。お前がもうちょっと露出度低い服着ればいい。そうすりゃ、声かけられないだろ。」
「う・・・。」
「じゃ。」
ひるんだ隙に俺は町の外に向かって歩き出した。
俺って飾るってこと頭にねぇんかねぇ。
「・・・・・・行っちゃったぁ・・・。でも・・・カッコよかったw」
・・・やっぱ語尾にハートマークがあるような気がする。
聞こえない、聞こえない。俺は何も聞いて無い。
そして。
「あっ。ついつい外出ちゃった。それにしても変な娘だな・・・。」
いろいろと勢いが余った。
「俺ああいうの苦手なんだよな。何考えてるかわかんないし・・・。とりあえず町に戻るか・・・。もう寝るかな。宿とろう。」
ぼやいた後、また向きを変えて町に入った。
宿屋に直行する。
「一泊頼む。」
宿主のおっさんに一言。
「はい。毎度あり。」
宿代を払って、部屋に案内される。
結構広い部屋で、ベッドはふたつあった。
あっても使わないけどさ。
さて今日はもう寝るか。
すぐベッドにもぐりこんだが、なかなか寝付けない。
うとうとして目が覚める。このくり返し。
何度目かに目を覚ました時。
このとき目を開けなけりゃよかったかもな。
何気なく右に寝返りを打ったときだ。
目に入ったのは・・・。
「なぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
思わず叫んじまったぞ。
なんでコイツが俺の借りた部屋で寝てるんだ?
「くぅ・・・。くぅ・・・。ん・・・。」
しかも爆睡してやがる。
・・・って!
「しかもこいつ何も着てねぇ!」
また叫んじまったろ!
なにやってんだこいつわー!?
「ん・・・んん〜・・・。」
俺が叫んでるからか、少し起きかけてる様な・・・。
いやちょっと待て。
「待てっ!!そのまま起きるな!!俺が死ぬっ!!」
・・・鼻血が出た。

ひと段落して、俺はそいつを椅子に座らせた。
「で、何でお前がここにいるんだ?」
一応普段どおりに振舞えたけど。
「ハナ血出てるよぉ・・・。」
返された・・・。
とりあえず栓をしとく。
「人の話聞けよ。だぁら、なんでなんでお前がここにいるんだ?」
脱線の理由は俺なんだがな・・・。
「・・・その・・・。・・・怖かったの・・・。」
「怖かった・・・って。あいつにまだ付け狙われてるのか?」
「・・・わ・・・わかんない・・・。」
「そんなに心配だったらギルドに頼んで護衛でもつけてもらえばいいじゃねか。18歳位までなら何とかしてくれるんじゃねぇの?」
逡巡してやがる・・・。
「頼みづらいんなら、俺が頼みに行ってやろうか?」
「う・・・・・・・・うん・・・。」
「で、お前いくつなんだよ。」
とりあえず、多分核心。
俺の推測じゃ、15ないし18ってトコか?
「えっと・・・ぉ・・・じゅ・・・18・・・かな・・・。」
は?
「『かな?』って・・・まぁいいや。名前は?」
とりあえずこりゃ大事だよな。うん。
「シ・・・シミュウ・・・だと思う。」
・・・まさかとは思うケドさ・・・。
「だと思う・・・って。これも、まぁいいや。クラスは?」
嫌な予感・・・。
「と・・・とれじゃぁ・・・はんたぁ・・・。」
「トレジャーハンター・・・。それも・・・多分?」
「うん・・・。」
予感、的中。
「・・・・・・困ったなぁ・・・。」
流石にここまで曖昧だとギルドも受け付けてくれるかなぁ。
とりあえず、血は収まったらしい。
栓を引っこ抜く。
「・・・・・・。」
シミュウとか名乗ったそいつはそれっきり喋らなかった。
涙浮かべてたけど。

2.「シミュウ」

朝になったら、シミュウとか言う女はいなくなってた。
「・・・あいつどこ行ったんだろな・・・。いつの間にかいなくなってたな。まぁいいや。自分で何とかできるだろう・・・。」
18(確信は無いけど)にもなってそれくらいは自分でできないとな・・・。
ちょっと気がかりだったけど、仕事が先だ。
「とりあえず、仕事探しに行くか。」
町の外に出ると、今日も昨日に続いていい天気だった。
レグアは1年通してそんなに天気が崩れない、気候の穏やかな土地だから、これが当たり前なんだろうな。
故郷のアイシクルじゃもう雪が降り始めててもちっともおかしくない頃なのにな。
世界の広さがわかるようなわからんような。
まぁそんなこんなで俺はギルドに向かった。
ギルドには、ほぼ昨日と同じヤツが屯してた。
よっぽど暇なんだろうな。
昨日と同じところで、昨日と同じおっつぁんが座ってた。
「おっつぁん。入った?」
「おう。今入ったぞ。」
お、マジか?
「仕事は、ここから北西に行ったトコに山があるんだ。そこの頂上に薬草があるんだ。その薬草をこの町の宿屋に届けてやってくれ。報酬は依頼主からそこでもらえる。受けるか?」
簡潔におっつぁんは説明してくれた。
この仕事についてるんなら常識だけど。
「報酬がいくらかわからんけど、受けよう。」
「任せたぞ!」
おっつぁんから激励の言葉を受けつつ俺はギルドを出た。
山か・・・。
そういえば昨日町の主婦が山には凶悪な魔物がいるって言ってたな。
備えあれば憂いなし、だ。
ポーションとかを買っとくか。

そんなこんなで俺は町を出た。
昨日思わぬ収入があったから、皮の盾も買っちまった。
ま、命には変えられねぇよ。
いくら金があってもな。
山は北西ってことだから、俺はそれに従って歩き始めた。
緩やかな平原が続く。
山まではそんなに遠くなかった。
が、途中でスライム3体と遭遇した。
いくら平和と入ってもやっぱモンスターはどこにでもいるもんだな。
スライムはいわゆるザコモンスターで、旅に関して初心者のヤツでも十分に相手にできる相手だ。
ただ、亜種がかなりいることでも知られていて、毒を持ったやつとか特殊な能力を持ったやつもいる。
普通のスライムは緑色をしている。
出くわしたスライムも、標準的な緑のスライムだった。
つまり、いっちばん弱いってこった。
数がちょいとあって1人じゃその点辛い所もあるけどスライムごときに負けてるようじゃ先々やっていけない。
さっくり倒して先を急いだ。

山は、レンゲルスという名前らしい。
そこそこに高い山だ。
なだらかな上りが続いている。
たくさんの石が落っこちてる。
下りのときゃ気をつけな。

そこそこの山道を歩いていると、グリフォンに出くわした。
凶悪、ってほどのモンスターじゃないけど、確かにスライムよりかは強いわな。
おまけにスライムとかに比べるとダンチに動きが速い。
連続でぼこぼこつつかれるからあんまり相手にはしたくない。
一応2、3発でノしておいて、先に進んだ。
手の甲でうっすらとかいてきた汗をぬぐう。
風は心地よく吹いているけど、運動してる分にはほとんど関係ない。
ところで、途中行き止まりで宝箱を見つけた。
おもむろに開けると、ラマナキューブが入っていた。
何気なく手に入れてしまったが、ま、ありがたく使わせてもらおうか。
ゆるゆると歩いていると、今度はコボルトと出会った。
狐とか狼とかの獣人で、手には粗末な槍を持っている。
まぁこいつもあまり強く無い類のモンスターだ。
あまり動かなくても倒せたから、俺の腕も少しは上がったんだろう。
なんだかんだで頂上に着いた・・・けど。
なんか昨日のショボ魔法使いが仁王立ちで構えてやがる。
ジャマだ・・・。
「ま・・・待っていたぞ!」
なんていきなり言いやがるから、
「俺は果たし状もらった覚えは無いぞ。」
と普通に返してしまった。
「そりゃそうだ!出してないからな!」
胸張って言うことか?
「この前の復讐したいの?」
「そうだ!お前がこの仕事引き受けたからってな!待ち伏せてたんだよ!」
「暇人。」
「うっさい!勝負だ!」
・・・なんだかなぁ。
少々気だるさを感じながら俺は剣を抜いた。
「昨日といい今日といい、ヘンなのが多いな・・・。」
思わず呟いてしまったが、これは紛れも無い俺の本音だ。
相変わらず疾風のダンとかいうそいつはファイアを使ってきた。
とりあえず、昨日と同じっぽいからもう攻撃しないで守りに徹してたら、案の定だった。
「あ・・・あれっ?」
「また・・・マナ尽きた?」
「ぐぬぬぬぬぬぬ・・・。」
学習能力の無いやつ。
マナポーションもってねーの?
あとは多分、言わなくていいと思う。
昨日みたいにしばいてやった。
でも、やっぱりミドルマナポーション持ってた。
・・・使えよな。
「さ、薬草持ってかえろうか。」
薬草を摘んでたら、
「お・・・覚えてろ!」
とかなんとかいう捨て台詞が聞こえてきた。
聞こえない、聞こえない。
帰りは、モンスターには遭遇しなかった。
ラッキー。
でも、疾風のダンとか言うやつに遭遇した。
・・・倒れてたけどな。
「あ、踏んじゃった。」
わざとだけど。
「侮辱しおってぇぇぇ・・・!!ぬおおおおおぉぉぉ・・・!」
「おぉ。ガッツはまだあるようだな。」
なんて言っといて俺はその場を去った。
ダン?
そんなやつ知らん。
とんとん拍子で山を下ってパッテクスへ。
速攻で宿屋に薬草を届けに行った。
宿主はいろいろと応対してくれて、これですんだって思ったら飲ませてくれって言われた。
ま、一応まだ仕事は終わって無いからいいけど。
早速部屋に案内してもらったけど、そこにいたのは・・・。
「え゛!!こいつだったの?」
・・・飛び上がるくらいビビった。
そう、ベッドで寝てたのは昨夜俺の部屋に侵入したシミュウとかいうヤツだったのだ。
とりあえず飲ませてやったけどさ・・・。

しばらくして、シミュウが目を覚ました。
「あわっ、僕服着たまま寝ちゃった!」
「それ普通じゃないの?」
おっと、おもわず突っ込んでしまった・・・!
が、時は既に遅かった。
「あれっ!?何でここに!?」
ほーら見つかった・・・。
ま、見つかったんならしゃーない。腹くくるか・・・。
イヤだけど・・・。
「仕方なくこの仕事をやった。」
「うそだぁwホントは僕の事気になったんだよねw」
「・・・。」
語尾にハートマーク・・・。
止めてほしいなぁ・・・そういう物言い・・・。
「ありがとう!」
・・・なんとなく照れくさい。
「俺はたいしたことして無いぞ。だが、報酬はきっちりもらうぞ。」
話をそらしてみた。
報酬は仕事やったんなら当然もらわなきゃな。
いくらかなー。
「はい。自家製大根の煮付け食べていってください。」
・・・・・・。
「・・・・・・・・。いただこう。」
・・・言っちまった。
んだけど俺、報酬ならなんでももらう癖があるんだよな・・・。
後で語った所によると、シミュウはこのとき「器でかっ!」とか思ったらしい。

「あ〜食った食った。故郷を思い出す味だなぁ。さっさと次の町へ行こう・・・。」
なんでこんなに急いでるかって言うとだな。
「待って!!」
「・・・・・・。」
そう、コイツが付いて来そうな雰囲気だったからできるだけ早くここを出たかったんだ・・・。
くそー、こんな時は速いなこいつ・・・。
「まってよw」
あぁ、やっぱハートマークがついてる・・・。
「あなたと一緒なら、僕、何とか冒険者続けれそう!」
俺は嫌だぞ・・・。
「故郷へ帰ったら?」
「やぁ〜だよっ!冒険者のほうが楽しいもん。」
この目はどこまでもついてくる目だ・・・。
パーティ組むの、断ったんだけどな・・・。
で、どうやら妄想入ったっぽい時を見計らって俺はさっさと逃げた。
んで、サウスレグアへ行く関所まで来たときだ。
もうこねぇよなって思って振り返ったら、ぴったりくっついてきてやがんの。
役人達もかなり引いてたぞ・・・。
強引に仲間になりやがった。
厄介だ・・・厄介極まりない・・・。
・・・あのダンとか言うやつとパーティ組むのとどっちがいいって聞かれたらどっちも断るくらいの勢いで厄介だ・・・。
だれか俺を助けてくれ・・・。
何でこんな目にあわにゃならんのだ。
なるべく顔をあわせないようにして、俺はひたすら無言で歩き続けた。
多分、普段の1.5倍くらいのスピードだったと思う。
それでも付いて来るんだから、ダンに付きまとわれてた時もさっさと逃げりゃよかったのに・・・。
とか何とか思いながらとりあえず町・・・いや村に着いた。
「程々に寂れた村だな。」
「のどか〜。」
「今日はもう宿を取ろう。」
シミュウは無視して、俺はさっさと宿屋に向かった。
宿屋では、寝るとき、無駄だとは思ったけどいっちばん離れてやった。
案の定隣で寝るとか言い出してしっかり隣のベッドに入りやがった。
あ〜あ、これから毎日こうなんだろうか・・・?

3.「疾風のダン再び」

・・・夜中、なんか馬の鳴き声が聞こえたような気がしたけど俺の気のせいかなぁ。
そうだといいんだけど。
仕事探そうとして宿屋から出たら、なんだか村の様子が変だった。
なんか・・・事件があった直後っぽい雰囲気ってヤツ?
とりあえず聞いて回ることにした。
で、村長か長老かって感じのじっつぁまに聞いたところ、最近ここの村では盗難が横行しているらしくこのじっつぁまも例に洩れず馬を盗まれてしまったらしい。
昨夜の鳴き声は気のせいじゃなかったんだな。
ヒントは、北西の洞窟を人が出入りしていたようだって事だな。 お礼は奮発するって言ってたから、さぞいいモンがもらえるんだろう。
二つ返事で引き受けた。
「パーティ最初の仕事だねw」
ってシミュウははしゃいでたけど、俺としては足手まといになるなよってところだ。
こいつ、トレジャーハンターらしいが何が出来るんだ?
さっき外でレッドスライムを見たから、念のためにって解毒剤を買っといた。
レッドスライムはスライムの亜種で、毒をもっている。
毒に侵されると、普段どおりの戦いができないから厄介だ。
・・・今はシミュウのほうが厄介かもしれないが。
村の北西の洞窟は、少々狭かったが結構モンスターがいた。
思ったとおりレッドスライムがいたし、グリーンコボルトもいた。
ただ、宝箱も2つあってラマナキューブとマナポーションが手に入った。
この辺のアイテムはありすぎて損は無いから遠慮なく頂くことにした。
洞窟を抜けたら、そこは孤島だった。
一軒だけ家が建っていた。
多分、そこに犯人がいるんだろう。
てなワケで早速踏み込んだ。
んだけど、なんかいきなり犯人らしきヤツが家の前で仁王立ちしてやんの。
話しかけたら、
「やっぱりきた!!」
って言うもんだから、
「わかってたんだ。冒険者が来るの。」
そしたら、
「そりゃそうだ!召喚士の手にかかれば予言だってお手の物さ!」
なんてぬかしやがる。
召喚士ってそういうことしない・・・よな?
それにしても・・・召喚士ねぇ・・・。
召喚士になるにはかなりの魔法の腕が必要だって聞いたことがある。
そんなに魔力があるんだったら食い扶持なんてどこにもあると思ったんだが・・・とりあえず、あえて言わなかった。
ちょいちょいともめたけど、こういう時ってやっぱ話し合いは通じないもんだな。
いきなりドラゴンなんて召喚しやがる。
・・・ただ、このドラゴンがな・・・。
かなり問題だった。
出てきて鳴き声が・・・普通「キシャー!」とか「グルルルル・・」とかだよな。
それが、「こけっこっこー」だったからやる気でない。
シミュウもかなりビビってたな。
「別の意味で恐怖だっ!!」
ちなみに、これは自称召喚士のほうも誤算だったらしい。
どうも、あまりすごい召喚士ではないようだ。
とりあえず、当面の敵はこのドラゴンなのかどうかよくわからないやつだ。
「あの声で鳴かれたら・・・。」
そう、あの声で鳴かれたらなぁ・・・。
ドラゴンって言ったら手ごわい、タフ、それでいてカッコイイ、だよな・・・。
だめだ、このドラゴン。
吐いてくる炎もショボイし、攻撃力もそうあまり無い。
おまけに鳴き声がニワトリだから、ますますやる気がでない。
シミュウもバトルフリスビーでがんばってたし、俺もそれなりやってたんだけど、いきなりあの声で鳴かれたから暫く生気が抜けちまったぃ。
倒すこと自体はあまり大したことはなかったんだけどな。
とどめは俺の二段斬りだった。
ドラゴンは、ゆっくりと消えていった。
「あー、怖かった。」
「想像するだけで気が抜けちゃうよぉ。」
大げさかもしれないけど、これホント。
「さぁ、返してもらおうか?」
一応、本題は忘れていない。
自称召喚士を問い詰める。
しかし、
「ヘ?何を?私は何もとって無いよ?」
と白を切る。
いや、これは演技でもなんでもなさそうだ。
と、すると・・・?
「それよりも!私の命を狙いに来たんだからただでは返さないよ!密告者だっているんだから!出てきて!!」
・・・命?
なんのこと、と突っ込む暇はなかった。
「密告したのは俺だっ!」
と、疾風のダンが出てきたから。
この声はもう聞きたくないんだが・・・。
ヤツは颯爽と屋根から飛び降りてきた。
颯爽?いや、撤回しよう。
全然颯爽としてなかった。
着地した瞬間、鈍い音が響き渡った。
「ヘンな音しなかったか?」
って、思わず聞いちまったぞ。
聞いてからしばらく無言でダンのヤツ片足抱えて飛び跳ねてた。
あの高さから飛び降りればそりゃな・・・。
で、思わず笑っちまったんだが、それに即座に反応してな。
「許さん!その娘をかけて勝負だ!」
とかぬかしやがんの。
ここまで来るとストーカー・・・だよな。
シミュウもとんでもないヤツにひっかかったもんだよ。
それでもしっかり魔法で攻撃してくるから、こっちも抵抗せざるを得ないわけだ。
けどまぁ、足くじいてもなお、
「ぬぅぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」
と唸りながらかかってきたガッツはすごいと思う。
まぁ、コイツの場合は・・・。
「あ・・・あれっ?」
思ってたそばからこれだ。
まったく。
「ふっふっふ・・・。今度はちゃんと使うぞ!」
そういってダンはマナポーションを飲んだ。
っておい。
「この前はミドルマナポーションもってたよな?」
「金使い切ってしまったんだ!文句あるかっ!!」
「い・・・いや。」
やっぱこいつ、バカだ。
マナポーションはマナポーション系統のアイテムでは一番回復量が低い。
こんだけファイアなりフレイムなりを連発してたらそれこそすぐにまたマナが尽きるだろう。
「あ・・・。」
思った通り。
「諦めたら・・・?」
なんて言われてハイそうですかって諦めるヤツはいないよな。
もう半分自暴自棄だろ。
とりあえず杖で殴りかかってきた。
魔法の使えない魔法使いを二人がかりでノすのもどうかと思うけど、まぁいいや。
こいつ、犯罪者だし。
というか、俺が一番こいつに言いたいことはだな・・・。
「『疾風』なら風の魔法くらい使わんかい。」
これだ。
「疾風の」ダンなのに、な。
どうしようかなーって思ってたら、自称召喚士がダンをボコボコにしてしまった。
騙されたことがよっぽど頭にきたらしい。
・・・てか、気づけ。
「白状しま〜〜〜〜す・・・。この二人をおびきよせるための罠でした〜。」
「アホか。」
で、自称召喚士がものは全て村に転送したって言ったから、とりあえずダンも送ってもらった。
ん?もちろん普通のトコに送るわけないっしょ。
俺らも村に転送してもらって、一応は落着だ。
あとは報酬をもらって、と。
そこでもっていてくだされ、って言って家に入ったじっつぁまが手に持っていたのは。
「ふたまたにんじん・・・。」
あきれた声でシミュウが言った。
「・・・・・・・・・・。・・・いただこう。」
シミュウはかなり驚いた。
そりゃな、いくらなんでもこんなん報酬にもらっておめおめとは引き下がれないよな、普通。
「いい・・・い・・・いいの?」
「こういうのはありがたくいただくものだ。金などは入ってこなくても途中でそれなりに入ってくるからな。」
「ひゃぁ・・・。」
「宿屋に戻ってこれで料理してもらおう。」
この一言は効いたらしい。
「わぁ〜いw」
シミュウはこれで笑ってくれた。
なんだかなぁ。
今日もここで一泊だ。

「さて、と。行くとするか。」
「うん!」
レグアは今日も快晴なり・・・。
こうして、俺たちは村を発った。
歩きながら、次の行き先を決める。
今度はもっと南だ。
道中、話しかけてみた。
俺から話しかけるのはどれだけ振りだろうな。
「でよ。お前はどーすんだ。」
答えはすぐ返ってきた。
「僕はもちろん、ついてくヨっ!」
「・・・わかった。足手まといになるなよ。」
別に好きになったわけじゃない。
もうこうなったら開き直るしかないって思っただけだ。
「わぁ〜いw」
素直にシミュウは喜んだ。
・・・やっぱり、なんだかなぁ。
でもな・・・?
「一言いいか?」
「なぁに?」
「お前の一人称バグってんぞ。」
これは、最初あったときから気になってた。
「これって普通じゃないの?」
「違う。お前どういう育ちしてんだ?」
「ぐっすん。」
う・・・ちょっときつかったかな・・・。
まぁ・・・いい・・・かな・・・?
「あれっ。そういえば。僕あなたの名前聞いてないんだけど。」
「・・・。言ってなかったな。」
こいつ、そんなんで付いていくとか言ってたんだな・・・。
こいつをダンにあげてもそれはそれで別にいいかもしれない・・・。
「ライだ。」
「ライ・・・。よろしくねっ!」
「おう。」
なんだかわずかな時間でとんでもないことがたくさん起こったような気がする。
なんでこうなってしまったかな?
いつのまにかこうなってたよな。
まぁいいか。
深く考えないのが俺の流儀だ。
さぁ、ここをもう少し行けばサウスレグアだ。
サウスレグアには、レグア地方の中心のレグア城がある。
レグア城ももうそろそろ見えてくる頃なんじゃないかな?

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

今ここにヘンな二人のコンビが生まれたのでした。
まだ二人の旅は始まったばかり、これからどんな冒険が待ち構えているやら・・・。
そんなことも深く考えず二人の旅は続くのでした。



第2話へ続く。